2009/12/24

(ぷちSS)「聖なる夜のおくりもの」(てるてる天神通り)



 ここは日の丸町天神通り商店街。
 年の瀬を迎える準備で大忙しの中、一番大変なのはやはりこちらなのかもしれません。
「おうおう、手の動きが止まってんぞ。スムーズかつリズミカルにデコレーションしねえ
と、ケーキの味が落ちちまうだろうが!」
「わかってるけどよ……、なんで今年はこんなにもクリスマスケーキの注文があんだよ、
クソ親父!」
 ずらりと並んだホールケーキの群れ。
 ケーキショップ「カンパニュラ」が一年で最も忙しくなる時期なのです。



「なんでって言われても、そりゃあ俺にもわかんねえよ。でもな、天志。お客さんがうち
のケーキをこんなにも予約してくれてんだ。ケーキ屋としちゃあ、こんなに嬉しいことは
ねえっ!」
 まあ親父の言うことは当然だし、俺もそう思うけど、それでも去年の予約の軽く二倍も
あるのは、どう考えてもおかしい。
 ……おかしいけど、考えたってしょうがないこともある。なにせここは、『変人通り』っ
て呼ばれてるぐらい、おかしなことが当たり前のところなんだから。
 天志はケーキのデコレーションを再開した。



「お、終わった……」
 予約のケーキ全てにデコレーションをし終えた天志は、同じ姿勢で硬くなった首を回し
ながら、気分転換がてらに店の外に出た。
「あ、天ちゃん」
「おう、御菓子。通りの掃除か?」
「はい。お休みですし、大晦日に慌ててやらなくてもいいようにと思いまして」
 御菓子はほうきで落ち葉を集めていた。
「確かにそうだな。よし、ちりとりはどこだ?」
「そんな、悪いですよ。天ちゃんは休憩に出ていらしたんでしょう。ゆっくり休んでいて
くださいな」
 と言われても、素直に休める天志ではない。
「気にすんなっての。これでも一応は町内会長なんだ。雑用は慣れてんだよ、……慣れた
くはないけどな」
 ぶっきらぼうな物言いだが、天志のやさしさは誰よりも知っている御菓子は、うれしそ
うに微笑んだ。
「それでは、よろしくお願いします、天ちゃん」
「応、まかせとけ」



 休憩と言う名の掃除を終え、天志は店に戻った。疲れていたことなどすっかり忘れてい
るようなすっきりとした表情だった。
 しかし、店に戻ると同時に渋面になった。それは、ケーキの山を眺めながらよだれをだ
らだらと垂れ流している神様の姿を見つけたからだ。
「おおう、天志か。今年こそはわしに供物としてひとつ、いやふたつでもみっつでも供え
るがよいと思うのじゃが、いかがじゃ?」
「いかがもたこもねーよ! それは売り物だからダメだっつってんだろ、おフク」
 おフクをつまみあげる天志。
「わかっておるわい。だからこそ、わしも断腸の思いでガマンしておったとゆーに、おん
どれときたら……」
 ぶつぶつ言うおフクを放り投げて、天志は溜息をついた。
「ったく、もうちょっとガマンしてろ」



 そして、クリスマスイヴを迎えた。
 去年ほどの忙しさではなかったが、盛況と言える客足で、二年連続でケーキはめでたく
完売となった。
「おめでとうございます、天ちゃん♪」
「やっぱり、わたしたちが手伝えば、百人力でしょ、天?」
「当然だ。なにせ私たちは、『天神通り看板娘三人衆』だからなっ」
 かんらかんらと笑うのは、御菓子に冬子に頼子姉。今年もケーキの売り子を手伝ってく
れたのだった。
「看板娘なんたらはよくわからねーけど、とりあえずありがとう」
 ぺこりと頭を下げて礼を言う。
「いーっていーって、わたしら幼なじみなんだし。それに、言葉よりもカタチで示して欲
しいなあ♪」
 にやにやと冬子。
「そうだな。良い子のところにはサンタがやってくるものと相場が決まっているぞ、天坊」
 良い子って年じゃなかろうに。と、心の中だけで呟いた天志は、苦笑しながら冷蔵庫か
ら小さな包みを取り出し、三人に手渡した。
「御菓子、冬子、頼子姉。今日はどうもありがとうな。でっけーケーキじゃないけど、一
応、俺がイチから作ったケーキだから、よかったら食べてやってくれ」
「ありがとうございます、天ちゃん♪」
「あ、ありがと」
「ふふふ、ありがたくいただかせてもらうよ、天坊。それじゃ、プレゼントももらったと
ころで、クリスマスパーティー兼、天坊のバースデーパーティーに行くとしようか」



 天志は、ちょっとだけやることがあるからと言い、三人娘を先に送り出した。三人の姿
が見えなくなったのをしっかりと見届けてから、ゆっくりと冷蔵庫の奥にしまっていた箱
を取り出した。
「えーと、なんつーか、材料が余ったから作ってみた。もし気が向いたら、食ってやって
くれ。そんじゃ、俺も行ってくっから。おフク、ほむら、みなせ、はやて、まゆい、それ
から他の神さんたちも、メリークリスマス!!」
 天志は大きなホールケーキを箱から取り出して机の上に置くと、部屋を出て行った。



「まったく、材料が余ったなどと言いおって、天志のやつ」
 おフクはケーキを一口頬張ると、幸せそうな笑顔で呟いた。
「めりい、くりすますじゃ、天志。そして、皆に幸あれ」
 今宵、天神通り商店街は、人々の笑い声が絶えることはなかったのでした。



0 件のコメント:

コメントを投稿