2003/07/15

「あいつとの思い出」(君が望む永遠)



��、天川との出会い(看護学校入学時)



「…………………………………………………………」
 壇上でえらい人が延々と話をしている。校長だか学長だかいう肩書きの人は、どうして
こうも話が長くなるのだろう。
 あたしはうんざりしていた。昔っからこの手の式は退屈でしかたない。できることなら
サボリたいぐらいだけど、入学式ともなれば、さすがに出席しないわけにはいかない。
 あたしは星乃文緒。今年の春からは看護学校の一年生。
 看護婦になるのが当面のあたしの目標だ。つっても、別に看護婦になりたいという確固
とした理由があるわけじゃない。誰かの役に立ちたいとか、小さい頃に看護婦にお世話に
なったとか、そんな理由でもあればいいんだろうけど。
 ただ、なーんとなく手に職持ってるほうが便利かな、と思っただけ。今の世の中、不景
気まっしぐら。技術を持ってて損する事はないだろうしね。
 あたしが看護婦になるって言った時、友人たちはみんな驚いたものだ。みんなボーゼン
としてた。それできっかり10秒後、大爆笑。あたしが一番似合わない職業らしい。失礼
なやつらねー、まったく。ま、わからないでもないけどね。
 ああ、そういやひとりだけ賛成してたヤツいたっけ。ヒロトだったかマサシだったか。
その理由を訊いてみたら、またみんな爆笑。そういうムチムチなナースのイメクラもいい
じゃん、だって。とことんバカだね。
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、いつの間にかえらい人の話は終わっていて、式
が進行していた。次は……新入生代表挨拶か。
「新入生代表、天川蛍」
「はいっ」
 元気良く聞こえた返事だったが、どこにもその姿は見つけられなかった。不思議に思っ
ていたらそいつはようやく壇上に上がった。その姿を見てあたしは思った。
��ここって小学校の入学式だっけ?)
 そいつ、天川はすんごくちっちゃかったのだ。あたしだけじゃない、周りにいる新入生
のみんなも同じことを思ったに違いない。だけど、天川はその外見とは違い、しっかりし
た口調で新入生代表挨拶をやり終えた。人は見かけによらない。それどころか見かけだけ
で判断してはいけないんだと思った。
 このときが、天川をはじめて知ったときだった。まさかこんなにも長い付き合いになる
とは、そのときは思いもしなかった。



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��、天川と仲良くなった(看護学校時代)



 看護学校での生活ももうすぐ一年が過ぎようとしている。講義や実習、レポートなど毎
日忙しい生活を送っている。寮生活も規則は煩わしいけど、それなりに楽しくやっている。
 この寮では2人部屋が基本で、あたしのルームメイトはあの天川だった。別に誰がしく
んだわけでもなく、ただの偶然だろう。あいつをはじめて間近に見たとき、あまりの小さ
さに驚いたっけ。入学式で見た光景は夢じゃなかったんだと思ったものだ。
 あいつは一言で言って、マジメなやつだった。二言目を付け加えるならば、一生懸命。
はっきりいって、あたしのニガテなタイプだ。事実、その予想は的中していた。あいつは
事あるごとに色々と口出しをしてきた。お化粧のしすぎですよとか、爪はもっと短くしな
いと患者さんを傷つけてしまいますよとか、夜中に窓から抜け出すのは寮則違反ですよと
か。
 なんでこんなに口やかましいのか、もしかしてあたしのことがキライなのか? そう思っ
たことも一度ならずあったけど、それはあたしの勘違いだった。
 あいつは、天川はただマジメで一生懸命なだけだったのだ。それに規則を守ることは理
由だけど、裏にはあたしのことを心配してくれていたんだってことも今ではわかってる。
 何日か前、夕食を食べてる時に、突然天川が一年のみんなに話し始めた。もうすぐ戴帽
式を迎える先輩たちに、一年のみんなで何か贈り物をしたい、ということだった。
 先輩たちに対する感謝の気持ちもこめて、そういうことをしたいという天川の純粋な気
持ちはみんなもわかってると思う。でも、あたしたちだってそんなに暇があるわけじゃな
い。戴帽式まで時間もないし、レポートの期限も迫ってる。看護学生というのは忙しいの
だ。
 天川だってそんなことはわかってる。だからああいうことを言ってしまったのだろう。
天川にとってはごく自然で当たり前のことを。
「ちょっと頑張れば、すぐに終わっちゃう量でしたよ……ねっ?」
 天川にとっては全然悪気のないセリフだったんだろうけど、みんなにとっちゃあイヤミ
以外の何物でもなかった。それはできるやつが言うセリフだったから。
 案の定、みんなは怒って食堂から出ていった。ま、確かにムカついてたってのもあるん
だろうけど、本当のところはやりたくないから、だと思った。あたしだって自分からやろ
うなんて言い出さないけどね。
 でも天川は、がっかりはしてたけど、すぐに立ち直って贈り物の準備を始めた。
 こいつのこういうところはえらいと思うのよね~。めげないっつーか、へこたれないっ
つーか。だけど、どうしてひとりでがんばろうとするんだろうね~。そうやってひとりで
がんばってる姿を見せられたら……ほっとけないじゃない?
 だから、あいつの手伝いをした。天川は知識とか勉強関係はすごいけど、実技関係はそ
れほどでもない。むしろダメなほうかな。それに比べてあたしは逆で、実技関係は結構得
意なほうなのよ。見かけに寄らず(って自分で言ってて悲しいけど)、裁縫とかも得意な
のよね~。
 これが天川と仲良くなったきっかけ。今まではただのルームメイトだったけど、これか
らは友だち………なのかなあ。ま、あたしはあたし。天川は天川なんだからあんまり変わ
らないのかもしれないわね~。でも、これ以降、天川はあたしのことを『星乃さん』では
なく、『文緒っち』と呼ぶようになった。
 なんとなくだけど、うれしかった。



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��、日常(欅総合病院時代)



 看護学校を無事に卒業したあたしは、欅町にある総合病院に勤めることになった。病院
の裏手には海があり、環境的にもいいところだ。同僚には……天川がいた。ここまでくれ
ば、くされ縁もいいところだ。お互いに家が欅総合病院に近いから、もしかして同じ病院
になるんじゃないか、ぐらいには思っていたが、いざそうなるとなんだか無性に笑いがこ
みあげてきた。運命の赤い糸なんて信じちゃいないけど、くされ縁って言葉ならまあいいやっ
て思えた。
 今振り返ってみると、このときが一番楽しかったのかもしれない。あたしがいて、天川
がいて、穂村、香月先生、涼宮さん、そして『彼氏』。いろいろと大変なこともあったん
だけど、楽しいって思える時間だった。
 天川は一生懸命なのはいいんだけど、それがカラ回りしてるってのかなあ。あいつらし
いと言えばそうなんだけどね。それにいつもニコニコ。中にはそのニコニコ顔が気に障るっ
ていうひねくれた患者もいたっけ。それでも、天川はいつでもニコニコな笑顔の看護婦だっ
た。
 そんな天川のフォローをしてるのは大抵あたしだった。面倒なときもあったけど、いつ
ものことだから慣れていた。なんだか子どもの世話をしてるみたいだよねえ。
 でもねぇ~、彼氏を誘って断られたときはちょっとショックだったけど、その後に天川
の誘いを彼氏が受けたって聞いた時はほんと立ち直れないかと思ったわよ。天川に負けた、
ガーン!! みたいな感じでさ~。だけどその後で彼氏の特殊な趣味のせいだって気が付
いたんでよかったけどね。
 ちなみに、その時のことを『彼氏』に問いただすと絶対否定するんだけど、あれは当たっ
てるから否定してるのよねぇ?



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��、報告(菩提寺)
 そして今。あたしは菩提寺に来ている。1年に1度、9月6日にだけ。掃除をして、花
を新しい物に変えて。1年間にあったことを報告する。



 あたしさ~、小児科の看護婦になることにしたよ。
 あんたの夢を受け継ぐっていうかぁ、あんたの目指してたものが何なのか知りたいんだ。
 ガキってさぁ~ほんとにうるさいのよね、ぴーちくぱーちくと。
 前のあたしなら、もう~うっさい!って言って泣かしちゃってたんだけど、今はそんな
ことないんだ~。
 なんだかね~ぴーちくぱーちくうるさいのもかわいいなぁ~って思えてきたよ。
 ガキだからぴーちくうるさいのは当たり前なんだって気が付いたのよ。
 それに、あんたの相手で慣れてたからかなぁ?
 あはははは。
 それからね~、すでに聞いてるかもしんないんだけど~、『彼氏』のこと。
 なんと! 医者になるんだってさ~。
 あんなにフラフラしてた彼氏なのにね~、人間変われば変わるもんだよ。
 ま、人の事は言えないか。あたしもそうなんだけどさ~。



 9月とはいえ、まだ夏の陽射しは衰えることなく降り注いでいる。先ほど掃除をして水
をかけたばかりだというのに、早くも渇きはじめている。
 ジジジと鳴くセミの声。毎年変わることのないような光景。けれど、少しずつ少しずつ
時は移ろっていく。辛い思い出も懐かしい記憶へと、楽しい思い出はより楽しかった記憶
へと変わっていく。



 それじゃあ、またね。天川。



あとがき





PCゲーム「君が望む永遠」のSSです。
ヒロインの星乃文緒の聖誕祭用です。
やはり文緒っちには天川さんがかかせないということで。
なんだか天川さんSSみたいですが、これはれっきとした文緒っちのSSです。
書いた本人が言うのですから間違いありません(笑)。
それではまた次の作品で。



��003年7月15日 文緒っちのお誕生日



2003/07/07

「7月7日」(マブラヴ)



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��月6日(雨)



明日は7月7日だ。
みんなにとっては7月7日=七夕なんだろうけど、わたしにとってはもうひとつの意味が
ある。
��年に1度だけの特別な日。
どんな日になるんだろう。
いいこといっぱいあるといいな。
でもひとつ不安なことがあるよ。
お天気。
天気予報では明日は雨。
今日が雨なのはしかたないとしても、明日は晴れてくれるといいな。
だって、毎年七夕は雨なんだよ?
��年に1度だけの特別な日ぐらい、晴れてくれてもいいじゃない。
そうだ!
てるてるぼーやだ!
てるてるぼーやを吊るしておけばいいじゃん。
そう思って、一生懸命てるてるぼーやを作った。
…………できたっ!
急ごしらえにしては良い出来だった。
わたしは早速てるてるぼーやを自分の部屋の窓の外に吊るした。
「何やってんだ、純夏?」
てるてるぼーやを吊るしていると、声をかけられた。タケルちゃんだ。
「てるてるぼーやを吊るしてるの。明日晴れますようにって」
「……てるてるぼーや?てるてるぼーずの間違いじゃないのか」
「いいの。てるてるぼーやのほうがかわいいでしょ」
「ま、いいけどな。どっちにしたって明日は雨だろうし」
「そんなのまだわかんないじゃない。みてろー、てるてるぼーやの力を」
明日は絶対に晴れるんだから!
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っと、こんなところかな。
わたしはいつものように日記を書き終えた。
しかしタケルちゃんもひどいなあ。絶対てるてるぼーやの力を信じてないよね。
明日になればその力にタケルちゃんも驚くことになるだろう。ふふん。
わたしはてるてるぼーやに全てを託して眠りについたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして翌朝。目が覚めてすぐに窓の外を見たわたしは目が点になった。



「どこまでも澄みきった青空。照りつける直射日光。波のせせらぎ。……うーん、夏だね
え」
「おい」
「子どもたちの騒々しい声も、カップルのいちゃつく声も、夏だねえ……」
「お~い」
「お祭りに浴衣、花火大会。夜店の金魚すくいに射的。屋台のドネルケバブにたこやき。
どこからどこまでも夏だねえ…………」
「バカ?」
カチン!
「バカって言った方がバカなんだよっ!」
わたしの言葉を聞いて、タケルちゃんはふぅと溜息を付いた。
「じゃあお前のほうがバカだな。だって今2回もバカって言っただろ」
「くっ……タ、タケルちゃんだって今2回言ったー」
わたしは悔しさに拳をふるわせながら言った。
「わかったわかった。いいから、そろそろ現実に戻って来いよ」
わたしとタケルちゃんはマイルドクルー横幅に来ていた。ある人いわく、『夏のにおいを
感じることのできない室内型リゾート』らしい(ある人ってだれ?)。
そう。わたしたちは屋内プールに来ているのだった。なぜなら、外は土砂降りだから。



目が覚めてすぐに窓の外を見たわたしの目に飛び込んできた光景は、すごい勢いで降り
注いでいる雨と、その雨によって原形をとどめていないてるてるぼーやだった。
やっぱりな、と言って笑うタケルちゃんをどりるみるきぃぱんちで黙らせ、なかば無理矢
理ここへ連れてきたのだった。



「いーじゃない。少しぐらい夏のイメージトレーニングしてたって。誰に迷惑かけるわけ
でもないし」
「俺に迷惑かけてるだろ」
「タケルちゃんは他の人とは別だよ」
「俺は一緒にしてくれてもいっこうにかまわないんだが。つーか一緒にしろ」
やれやれしかたないなあ~。それじゃタケルちゃんの相手をしてやりますか。
「それじゃあタケルちゃん、泳ぎに……って何見てるのよ」
タケルちゃんの視線はわたしではなく、わたしの肩越しに何かを見ていた。振り返って見
ると、そこにはきわどいハイレグのお姉さんがいた。タケルちゃんの視線はお姉さんのハ
イレグ部分に釘付けだ。
「……ヘンタイだね」
ヴォグゥ!!
「んがっっっ!!!」
ザッパーーーーーンッッッ!!
どりるみるきぃぱんちふぁんとむをタケルちゃんにぶちこんだわたしは、ひとりでマイル
ドクルー横幅名物のウォータースライダーへと向かった。ふんだ。水でもかぶって反省す
ればいいんだ。隣にわたしがいるのに、他の女の子に目が行くなんて失礼だよ……。



あ~、気持ちいい~。
やっぱり室内プールといったらウォータースライダーだよね。このジェットコースターみ
たいなスピード感はたまらないよ。
せっかく来たんだし、タケルちゃんにも味わってもらおう。あ、タケルちゃんだ。
「おーい、タケルちゃーん」
「んあ?……なんだ純夏かよ。やっと戻ってきたか」
「うん。ねえねえタケルちゃんもウォータースライダー乗ろうよ~。すっごいおもしろい
よ」
「戻ってくるなりそれかよ。やっぱり純夏は純夏だよな」
なにそれ、どういう意味。もしかしてタケルちゃんバカにしてる?
「別にバカにしてるつもりはねーよ。お前はお前だってことだ」
「なんかよくわかんないけど。ところでタケルちゃん何してたの」
「ああ。お前にプールに落とされてから、美人のお姉さんに助けてもらったよ。人工呼吸
のオマケ付き。それからそのお姉さんと楽しく過ごした。お姉さんは用事があるっつーん
でさっき帰ったとこだ。いやー、いい人だった。どっかの誰かとは大違いだ」
え?……うそ、だよね?
「連絡先も教えてもらったし、今年の夏は楽しくなりそうだぜ。ははははは」
タケルちゃんが他の女の人と……え?え?
「…………なーんてな。何信じてるんだよ、バーカ」
タケルちゃんは呆れ顔だ。
急にそんなこと言われたらびっくりして冷静に考えることが出来なかったんだよ~。
「純夏を待ってたんだよ」
…………え?
「……もう1回言って」
「二度と言わねーぞ。……純夏を待ってたんだよ」
「ほんと?」
「ああ」
「ほんとにほんと?」
「しつこいぞ」
…………えへへへ。まいったなー。どうしてかわからないけど、うれしいよ~。
「ゴメンね、タケルちゃん。おいてけぼりにして」
「いいよ。気にしてねーからさ」
時々タケルちゃんってやさしいよね~。いつもこうだといいんだけど。
「んじゃあ、行こうぜ」
「うんっ!」
わたしは幸せいっぱいに頷いたのだが。
タケルちゃんの歩いていく方向はウォータースライダーの方向とは違っていた。
あれれ?
「タケルちゃん、そっちは方向が違うよ?」
わたしにとっては当然の疑問だったが、タケルちゃんはこう言った。
「何言ってんだ。こっちにしか売店はねーだろ?」
は?売店??
「財布役のお前がいないことには買い食いもできないからなあ。ほんと待ちくたびれてハ
ラペコだぜ」
「財布役?」
「そう。財布役。なにしろ無理矢理連れてこられてきた身。当然、飲み食いはおまえ持ち
だろ」
さーて、何を食おうかな~なんて言いながらタケルちゃんは歩いていった。
「やっぱり、タケルちゃんはタケルちゃんだね……」
わたしは呆れたまま、しばらくそこに突っ立っていたのでした。



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コンコン
「………………」
コンコン、コンコン
「………………………………」
おかしいな~、気が付いてないのかな。……よし、これでどうだっ!
わたしは手近にあったソレを投げつけた。タケルちゃんの部屋の窓めがけて。
すると、ちょうどいいタイミングで窓が開いて、ソレはタケルちゃんにクリティカルヒッ
トした。
「……ててて。いってーな!何すんだよ!!ん?国語辞典??んバカか、てめえはっ!!
こんなもん投げたらガラスが割れちまうだろがっっ!!!」
タケルちゃんが怒りながらソレを投げ返してきた。
「あ、ははは~。ごめんなさい。気づいてないかと思って」
「気づいてないからってこんなの投げるかね、普通」
タケルちゃんは呆れていた。
「まーまー、それより今日は楽しかったね」
「ん?」
「マイルドクルー横幅だよ。今シーズン限りなんだもん。どうだった?」
「あー。あのたこやきは絶品だったなあ。思い出すだけでもよだれが出てくるぜ。それに
お好み焼きもだ。味はそれほどでもないが、あのボリュームで200円とは信じられんよ
なー。あの店あんな値段設定でやっていけるのかって心配しちまうぜ」
「いや、そっちじゃなくて」
「んん?あー、金魚すくいのほうか。俺の腕前をもってすりゃちょろいもんだった。店の
おやじ、泣いてたからな。かわいそうになって、獲った金魚全部返してやったもんな。ま、
持って帰っても育てられないということもあるが」
「……タケルちゃん」
「なんだ?」
「やっぱり、タケルちゃんはタケルちゃんだね……」
わたしはしみじみと今日2回目になるセリフを口にした。
「ところで、今日は何の日か知ってる?」
これ以上この話を続けてもしかたないので、話題を変えることにする。
「今日は7月7日だから……七夕だろ?」
「……そうだね。他には?」
「何だっけ?」
じとーーーーーーーーーー。
「冗談だよ。純夏の誕生日だ。おめでとう」
「ありがとう」
「…………」
「それだけ?」
「誰か他に誕生日のやつでもいたっけ?」
……そうだった。タケルちゃんはこういう人だった。ガクリ。
気を取り直して、と。
「今年も雨だったね~」
「毎年のことだからなあ。そういや天の川って見たことないよなあ。純夏は見たことある
か?」
「言われてみるとないかも。あ、ねえねえ、織姫と彦星ってわたしたちみたいだね」
「そうか?織姫と彦星は年に1回、七夕の日に天の川をはさんでしか逢えないんだぞ。俺
たちは違うだろ。毎日こうやって家と家のほんの少しの隙間をはさんで逢うことができる
んだからな」
「そうか。じゃ、毎日が七夕みたいなもんだね」
「それはどうかと思うが、まあそういうこった」
「ってことはー、毎日が7月7日。つまり毎日がわたしの誕生日。……タケルちゃん!」
「な、なんだよ」
「明日はプレゼントよろしくー」
「………バカ?」
むかっ。
「バカって言った方がバカなんだよっ!」
七夕=わたしの誕生日なんだから、この論理は完璧じゃない。
「じゃあ、お前は毎日年を取っていくわけだ?」
え?
「だってそうだろ~。誕生日に年を取らないヤツなんていないもんなあ」
……しまった。そこまで考えてなかったよ……。
「てことはあれだ。来月にはお前はおばさんで、再来月にはおばあちゃんか。……俺には
なぐさめの言葉もかけられねーよ」
よよよ、とタケルちゃんは大げさに泣き真似をした。
「うるさいなー、もういいよ。それじゃおやすみっ!」
「あ、ちょっと待てよ。プレゼント欲しくないのか」
プレゼント?
むかっとしていたわたしの気持ちはその言葉で元に戻った。
「何かくれるの?」
「ああ、目を瞑って手をこっちに出せ。……もっとこっちに寄れ。……よし、動くなよ」
わたしはタケルちゃんの言う通りにした。
わー、何をくれるんだろう。どきどきするよ~。
わたしは手のひらに神経を集中させていた。



ちゅっ



「わっ」
「そんじゃ渡したからな。おやすみー」
ガラガラー、ピシャ。シャッ。
窓を閉める音、カーテンをひく音が聞こえた。
わたしは一瞬何が起こったかわからなかったが、すぐに理解した。
思わず唇を手でなぞる。
確かに唇にはその感触が残っていた……。
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……なんてね。
わたしは日記を閉じながら呟いた。
ちょっとだけ脚色しちゃった、へへへ。
今日は貰えなかったけど、クリスマスには貰えるかな。
タケルちゃんは約束しても守ってくれないけど、でも……。
ちょっとぐらいは期待してもいいかな。
だって……。
これからも、わたしとタケルちゃんはずーーーーっと一緒なんだもんね!!



あとがき



PCゲーム「マブラヴ」のSSです。
ヒロインの鑑純夏の聖誕祭用です。
いろいろ調べて書いているうちに、純夏への想いが強くなっていることに気づく(笑)。
やっぱり純夏っていいですよね~。
それではまた次の作品で。



��003年7月7日 織姫と彦星の日