2009/07/28

(ぷちSS)「9日目 弘明と雄一」(舞阪 美咲)



 今日もじーじーとセミの声が暑さを増している。と思ったら急に雨が降ってきて、じめ
じめと暑くなってくる。もしかしたら、今年の夏はずっとこんな調子なんだろうか。
 運動部でも俺たちバスケット部は基本的に体育館なので、雨が降ろうが雪が降ろうが平
気だけど、外でやっているやつらは大変だ。
「こら、雄一。よそみしてちゃダメでしょ」
 べしっ。ハリセンで俺の頭を殴ったのは、美咲だ。
「どうせ、水泳部の女の子の水着姿でも見てたんでしょ」
「おい、ちょっと待て。ここからプールは体育館をはさんで向こう側にあるんだぞ。見え
るわけないだろ」
「何言ってるの。雄一が心の目で見ていたのは知ってるんだよ?」
 ふふんと豊かな胸を張る美咲。……おいおい。
 俺は反論しようと口を開いたところ、
「おーい雄一。いつまで舞阪といちゃいちゃしてるんだよ。部外者の俺を練習につき合わ
せてるんだから、しっかりやってくれないと困るぞ」
 助っ人の弘明がにやにやしながらそう言った。
 ……しょうがない。
「おう、今行くよ」
 言いたいことは美咲にも弘明にもあったが、今はバスケをやろう。



 練習が終わってから、俺たちは食事を取った後でいつものように図書館にやってきた。
 俺たちが通っている玉川城南高校の隣には、市の図書館がある。市としても力を入れて
いるらしく蔵書の量も多いが、それだけに来訪する人も多く、結果としてかなりのスペー
スを来訪者用のスペースとして使用している。
 俺たちはお馴染みとなった雑談スペースの定位置に行くと、そこにはグッさんが一人で
静かに勉強していた。
「おまたせ、香奈ちゃん♪」
 美咲がグッさんに後ろから抱きついた。
「わあ、美咲ちゃん? あ、みんなもお疲れ様」
 それぞれ挨拶をしてから、椅子に座る。グッさんの前が俺、その隣に美咲。その前が弘
明で、その隣がグッさんになるのが、いつもの定位置だった。



「へえ~、今日は弘明君もバスケ部に参加してたんだ?」
「そう。雄一がどうしてもって言うからね。俺としてもたまに身体を動かすのも悪くない
し、オッケーしたわけだよ」
「でも、すごいよね、弘明君。勉強も出来るけど、バスケもできるんだ」
 バスケだけではない。こいつはたいていのスポーツはそつなくこなすやつなのだ。
 だいたい、メガネを掛けているくせに勉強もできてスポーツもできるとは、どういうこ
となんだと俺は問いたい。全国のノビタくんに謝ってほしい。
「ぼーっとしてた雄一よりは、弘明くんのほうが何倍もカッコよかったよ♪」
 おのれ、美咲め。
「まあ、そういじめてやるな、舞阪。やる時はちゃんとやる男なんだよ、雄一は。グッさ
んも知ってるよな」
「うん。いざという時は雄一君の集中力すごいもん。だから、大丈夫だよ、雄一君」
 なぜかはわからないが、ふたりに励まされていた。でも、元気は出てきた。
「ありがとな。弘明、グッさん」
「イイってことよ。舞阪とのいちゃいちゃを毎日見せてもらえりゃ、俺としては何も言う
ことはないからな」
 ……。
「ま、毎日いちゃいちゃしてるんだ……」
 グッさんまで。
「ほら、美咲。こいつらになんとか言ってやってくれ」
 美咲はにっこり笑うと、こう言った。



「雄一とのイチャイチャは毎日ビデオ録画してるから、いつでも貸してあげるよ☆」



 100パーセントありえないことなのに、美咲が言うと本当にやっていそうな気がする
のはどうしてだろう。
 弘明は大笑いし、グッさんは顔を赤くしつつも笑っている。
 ま、みんなが笑っているならいいか。
 こんな親友たちと一緒に過ごすなら、夏の暑さも気にならないからな。



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