2009/07/22

(ぷちSS)「3日目 日替わり定食、大盛り!」(舞阪 美咲)



 夏休み3日目。実質は先週の土曜日から始まっているわけだが、あくまでもカレンダー
にこだわりたいところである。だって、土曜には土曜の、日曜には日曜の楽しみ方がある
だろう?
 さすがに今日は俺も美咲も普通に起きて、学校に行った。セミの鳴き声がうるさいが、
それにも慣れつつある。まあ、美咲の相手は慣れることはあっても飽きることはないが。
 夏休みではあるが、学校は開放されている。部活の為に出てきている生徒もいれば、勉
強のために出てきている生徒もいて、学内はそこそこのにぎわいをみせていた。
 体育館に着くと、すでに俺たち以外のメンバーは揃っていて、それぞれ身体をほぐして
いるところだった。
「ようし、それじゃ練習始めようか。まずはランニングからかな」
「一番遅く来たくせに、なんでエラそうに仕切っているんだ、笹塚。最後にやってきたヤ
ツはグラウンド10周って罰ゲーム、忘れたのか? お前が提案したんだろう」
 すでに身体をほぐし終えてボールの感触を確かめていた中村がツッコんできた。細かい
ことを覚えているヤツだ。
 言い方はキツイが、コイツに悪気はない。無愛想が服を着ているとクラスメイトに陰口
を叩かれることもあるが、根はいいやつなのだ。それはバスケ部のメンバーなら誰も知っ
ていることだ。
「しょうがない。それじゃちょっと走ってくるよ。それじゃ中村、練習進めておいてくれ
るか?」
「おう」
 中村は早く行けと手を振る。……根はいいやつだったよな?
「雄一、がんばってね♪」
「おう。美咲も練習の手伝いよろしくな」
「うん!」
 俺はダッシュで荷物を部室に投げ入れると、ダッシュでグラウンドに入っていった。
 幸いにして、今日の天気はくもりだ。



「ぴぷ~~~。はーい終了~。みんなお疲れ様! これで今日の練習は終わりだよ♪」
 美咲の声を聞いて、みんな体育館のフロアの上に寝転がる。ぜいはあと息が切れている
が、フロアの冷たさが火照った身体に心地よかった。
「しかし、その口笛なんとかならないのか、美咲。どうにも脱力するような気がするんだ
けど」
「え~、普通だと思うんだけどなあ」
 首を傾げる美咲のポニーテールが揺れる。
「舞阪の口笛はさておいて、今日の練習はもう終わりなのか。まだ昼には早いぞ?」
 中村が珍しく会話に加わってきた。
「ああ。でも、今日は日食だろ。せっかくだから見ておこうと思ってさ。他の部活も協力
して、練習切り上げてるらしいんだ」
 グラウンドを走っている時に、他の部活のヤツに話しかけられて、そういうことになっ
ていることを知ったのだ。
「そうか、わかった」
 そういうと、中村は一人静かにストレッチを始めた。うーん、納得すると聞き分けがい
いのはいいと思うけど、もう少しフレンドリーにならないものかな。
「そういうわけなので、みんな学内の好きなところで日食観察しましょう♪」
 美咲がそう言うと、仲の良いやつらが固まって移動していった。



「美咲はどこで見るんだ? やっぱり屋上とかか」
「わたしは……雄一の隣かな♪」



 だから、そういう台詞はやめろっての。恥ずかしくなるだろ。
「そ、それじゃあここでいいか。わざわざどこかに行くのもめんどうだしな」
 俺は照れくささを隠してそう言うと、入り口の風通しのいいところに座る。美咲も俺の
隣にぺたりと座った。
「あー、でも今日はくもってるからあんまりよく見えないかもね」
 空を見上げると、確かにくもっていた。先ほどは太陽が出ていたような気もしたけど、
今はすっかり雲で覆われているようだ。
「ほんとだ。……うーん、これは見えそうにないかな」
「……雄一、テニス部の女の子のアンダースコートは見えなくて当然だよ?」
「誰が見てるんだ、誰が!」
「でも、今想像したでしょ。想像したよね♪」
 あははと楽しそうに笑う美咲。
 そんなことをしているうちに時間は過ぎて、結局のところ、日食は見れずじまいだった。
「残念だったな」
「こればっかりはしょうがないよ。でも、次の日食の時も雄一と一緒にいられるといいね♪」
 だから、恥ずかしくなるってのに……。
「あー、それじゃ昼飯にするか。今日は俺がおごってやるよ。何がいい?」
 美咲はにっこりと笑って言った。
「学食の日替わり定食! 今日は『日食定食」なんだって。楽しみだよね~」
 なんだそりゃ。それは日替わり定食定食の略称か?
「日替わり定食、大盛り! うーん、早く行こうよ、雄一♪」
 揺れるポニーテールを追いかける俺なのだった。



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