2009/07/23

(ぷちSS)「4日目 学生の本分」(舞阪 美咲)



 昨日はあんなにもしっかり曇っていたのに、今日は太陽のターンとでも言いたいのか、
朝から元気に太陽は陽射しを降りそそいでいた。
「おっはよ、雄一。今日もがんばろうね♪」
 そして、美咲も変わらず元気だった。まあ、美咲から元気を取り除いたら何も残らな
いわけで、当然ではあるんだけど。
「あー、そんなこと言っていいのかな。後で困っても助けてあげないよ?」
 はいはい、と受け流しつつ学校に向かって歩く俺は、後にこの言葉を後悔することを、
今は知る由もなかったのだ。
 ……まさか、こんな言い回しを使う日が来ようとはな。



 午前中は短時間だが密度の濃いバスケ練習。にぎやかな昼休みを挟んで、昼は勉強の
時間だった。
 学生たるもの、夏休みには『夏休みの宿題』というものが存在する。
 夏の午後などは一番暑い時間帯であり、部活の能率も上がらない。それならばいっそ
のこと、勉強の時間に当てようとみんなで決めたのだ。
 もちろん強制ではないので、それぞれ昼寝したり、遊んだり、奇特なことに個人練習
したりと自由に時間を使っているヤツもいる。
 俺は、美咲を含めた何人かと、図書館にやってきていた。涼しい環境で勉強できるな
ら、それに越したことはないしな。
 それに、ここの図書館は談話スペースもあるので、少々は喋りながら勉強していても
問題ない。
「おう、雄一~。こっちだこっち」
 誰かが呼ぶ声が聞こえたのでそちらに顔を向けると、弘明がさわやかな笑顔で手を振っ
ていた。
「弘明も来てたのか。夏休みの宿題か?」
「ああ。家でひとり寂しくやってるよりはよっぽど捗るからな」
 こいつはきっとひとりでも、俺より勉強捗るぐらいには優秀だけどな。



 野洲弘明(やす ひろあき)。クラスメイトだ。一年の時に同じクラスになったこと
が縁で、何かとつるむようになった。
「弘明くんは、今日はひとりなの?」
 美咲が問うと、
「ああ。グッさんは今日は用事があるって言ってた。お前たちが来てよかったぜ」
 俺としてもひとりで宿題やるよりは、みんなでワイワイやったほうが断然いい。たと
え、勉強の効率が悪くたって、そんなことはどうでもいいことだ。
「そんじゃま、早速始めようか」
「うん♪」
「おう」
 それぞれジャンルは違うが、宿題を進めていく。こういうのは同じ教科をやってはダ
メであり、別々にやることに意味も意義もあるのだ。



「……むう」
 この問題、どうやって解くんだ? 夏休みの宿題なんて簡単だろうと高をくくってい
たが、なかなかどうしてムズカシイじゃないか。
「美咲、ちょっといいかな」
「ん、なあに?」
「この問題なんだが……」
 と、俺は隣に座っている美咲にムズカシイ問題のページを指し示す。
「……これが、どうかしたの?」
 ……あれ?
「教えて欲しいなー、と」
 美咲の表情を伺うように、俺は慎重に答えた。
「……後で困っても助けてあげないって言ったよね♪」
 満面に笑みを浮かべて、美咲は言った。
 ……しまった。顔は笑っているが、これは怒っている、間違いなく。
「そこを何とか」
 ここはくやしいが、下手に出るしかない。
「わたしから元気を取り除いたら何が残るのかな?」
 ……ぐっ。
「や、やさしい美咲さん、です」
「他には?」
「……か、可愛い美咲さんです」
「他には、他には?」
「ス、スタイルのいい美咲さんですっ」
「続けて続けて」
「や、やさしくて、可愛くて、スタイルのいい美咲さんです! そんな美咲さんに元気が
加われば、もう鬼に金棒ですよ!!」
 俺は夢中で美咲を褒めちぎった。
「もう~、そこまで言われちゃしょうがないかな。よし、許してあげちゃおう」
 よしっ、やったぞ、俺……。
「それじゃ、この問題の答えを」
「うん、いいよ。ねえねえ、弘明くん。この問題を雄一に教えてあげて♪」
「おう。えーと、これはだな……」
 弘明はさらさらとノートに答えを書いていった。
「ふむふむ。雄一、これでいいかな?」
「……それ、ズルくないか」
「何言ってるの。美咲ちゃんのおかげじゃない☆」
 えへんと胸を張ってウインクをする美咲。……ちくしょう、可愛いな。
 これからは、学生の本分でもある勉強をおろそかにしないようにしようと、心に誓う俺
なのだった。



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