2009/05/27

(ぷちSS)「新たなるシリーズ?」(FORTUNE ARTERIAL)



 五月のカレンダーも残り少なくなってきている。空模様は間近に迫っている梅雨を予感
させるような曇り空だった。
 だが、それはあくまでも空のこと。ここ、修智館学院の白鳳寮では、普段と変わらずに
いつものようにお茶会が開かれていた。
「いやっほー♪ もうすぐ六月だねえ」
 のっけからテンションが高いのは、やはりかなでだ。
「そうですねえ。……お、このお茶美味しいね、白ちゃん」
「ありがとうございます。実は、シスターに珍しいお茶をいただいたので」
「なるほど、道理で。……えっと、かなでさん。俺の部屋の隅でいじけないでください」
 かなでは孝平の部屋の隅で、のの字をたくさんのフォントを使い分けながら大量に書き
なぐっていた。
「だ、だってこーへーがおねえちゃんをいじめるんだもん」
「もう、しょうがないなあ、お姉ちゃんは」
 陽菜が苦笑しながらかなでのところへ行き、一言二言話しかけると、かなでは陽菜に抱
きついた。
「さすが陽菜ね。もう悠木先輩の機嫌が直ったわよ」
 瑛里華が感心した。



「ごめんね、孝平くん。後でお部屋はお姉ちゃんと掃除するから、今だけ勘弁してね?」
 戻ってきた陽菜が孝平に頭を下げる。
「いや、陽菜のせいじゃないさ。俺もちょっと大人気なかったかも」
「そうそう、わたしもおとなげなかったと思ってるんだよ、こーへー」
 かなでが平たい胸をえへんと張っている。
「だからね、わたしたちでこーへーの部屋をお掃除しようと思うの♪」
「……ええと、気持ちは嬉しいんですが、そのラクガキだけで十分ですよ?」
 かなでは、ちっちっちと指を振った。
「あのね、これは別にいやがらせじゃあないんだよ?」
 にっこりと微笑むかなで。
「もうすぐ六月でしょう? 新入生のみんなも、五月病が治る頃で、寮生活にも慣れて来
た頃だと思う。慣れるってのはいいことだけど、それだけじゃないんだよ」
「はい。かなで先輩、お茶です」
 白が差し出したゆのみを、かなでが一気に飲み干した。
「ありがと、しろちゃん♪ それでね、そろそろ寮生活において問題になってくる時期な
んだ」
「何が問題になるんですか。悠木先輩」
 問題と聞いては聞き捨てならないのだろう、瑛里華が尋ねた。
「ちょっとずつ、ちょっとずつだけど、お部屋が汚れてくると思うんだよね~」
「部屋、ですか?」
「そうだよ、えりりん。女の子はキレイにしている子が多いけど、男の子はちょっとね~。
こーへーの部屋も、転入したての頃よりは、ちょっと散らかってきたでしょ」
 確かに、言われてみると多少は散らかっていると思った。お茶会のメイン会場なので、
なるべくきれいにしているつもりの孝平だったが、逆に言えばお茶会で使わない場所なん
かは掃除がおろそかになっていた。



「だからね、毎年この時期になると、美化委員会の強化月間なの」
「風紀委員会も協力してるんだよ」
 悠木姉妹が声をそろえる。
「ふむ……、これは生徒会も協力したほうがいいかしらね……。白は、どう思う?」
「そうですね……生徒の自主性に任せるのが一番だと思いますが、その自主性を促すお手
伝いが出来たらいいと思います」
 派手な生徒会長や突撃副会長など目立つ人材が多い生徒会で、白は目立たない位置にい
ると思われがちだが、自分の意見をしっかりと持っているのだった。
「えらいね、白ちゃん。その通りだよ」
「うんうん、お姉ちゃんはうれしいなあ」
 にこにこと微笑む悠木姉妹。
「オッケー。それじゃあ、これは私たちだけじゃなくて、学院の行事扱いで進めましょう。
そうすれば、学院から助成金も出るし、いろいろやりやすくなるわ」
 きらきらと目を輝かせながら瑛里華が言う。やはり、突撃副会長の名前は伊達じゃない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだかよくわからないんだけど、どういうことなんだ?」
 ひとり、おいてけぼり状態の孝平が瑛里華に尋ねた。



「そうね……わかりやすくいえば、『お掃除洗隊ふぉーちゅんファイブ』ってところね!」
「それいいよ、えりりん! うわー、なんだかおもしろくなってきたー。ね、ひなちゃん」
「そうだね。がんばろうね、白ちゃん」
「はい、よろしくお願いします。陽菜先輩」
 やはり孝平はおいてけぼりで、女の子たちは盛り上がっていった。






 つづく



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