2008/09/04
(ぷちSS)「シールの力」(FORTUNE ARTERIAL)(悠木 かなで)
「それじゃあ、かなでおねーちゃんが、こーへーを元気にしてあげよう♪」
にっこり笑顔でそんなことを言われた。
風呂上りに談話室に寄って、ジュースを飲みながら涼んでいたら、
かなでさんがやってきたのだ。
こういう場合、年上のお姉さんにこんなことを言われたら、少しは
ピンク色の内容を思い浮かべたりするものかもしれないが、相手は
かなでさんだ。油断は禁物だと思う。
「こーへー、ちょっとひどいこと考えてるよね」
なぜそれが? と思ったが、相手はさっきも言ったがかなでさんなのだ。
「そんなこーへーには、正義の鉄槌を、とりゃ☆」
ぺたし。
貼られたそれは、風紀シールとはちょっと違っていた。
「ふふふ。それはね、空気シールなんだよ」
空気シール?
「そう。空気を読みなさいって意味、こーへーも知ってるよね。それを
貼られた人は、空気を大事にするようになるの」
へ~……そう……なの……か。
「ああっ、こーへーの顔がむらさきいろにっ!?」
「……多分、呼吸ができていないのではないかしら」
……。
「そっか。きりきりありがとっ」
かなでさんはシールをべりりっとはがすと、俺のほっぺたをぱしぱしと
叩いた。
「……かなでさん」
「こーへー……、よ、よしっ、ここはおねえちゃんがじんこーこきゅーを」
「大丈夫ですから」
俺はかなでさんの頭をなでると、ソファにぐったりと腰掛けた。
「紅瀬さんも、ありがとな」
「騒がしいのが嫌いなだけよ」
と、紅瀬さんは言ったが、立ち去ることはなく、いつものように窓の近くの
指定席に座りながら、窓の外を眺めていた。
「かなでさん」
「なあに、こーへー」
「空気って、とてもおいしいんですね」
「よかった、こーへーにも空気の大切さが伝わったんだね」
「……それは少し意味が違うのではないかしら」
桐葉の溜息交じりの声は、ふたりには届かなかった。
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