2008/08/16

魔法少女リースリット・ノエル 第4話



第4話 プリンのお姫さま、参上



 満弦ヶ崎湾上空。
 青い空と白い雲の間に、ぽつんと浮かぶ白い影がある。
「反応はこのあたりのはずですね……。恭子ー、聞こえてますか?」
 身長は140センチに満たないぐらいの小柄な少女が、白っぽい
衣装を身にまとって、空中に音も無く浮かんでいる。風が少女の
身体を撫で、太陽の光が首からぶら下げているペンダントに反射して
輝いている。
”聞こえてるわよ。あのねー、恭子じゃないっつってんでしょ。
何のためにコードネーム決めたと思ってるのよ”
 少女の耳についているインカムから、通常よりも大きな音声が漏れる。
「あ、すみません~。それで、反応の場所は間違いありませんか、
キョウ?」
”アンタ、マイペースね……。まあいいわ。座標データは間違ってないわ。
ちょうど海の上らしいし、見つけやすいと思うけど”
「わかりました。それでは、探査を開始します」
 少女はポケットからキーを取り出すと、胸元のペンダントの鍵穴に
差し込んだ。
「いくよ、まるぴん。スタートアップ!」
 キーをひねると、ペンダントが光を放ち、中央の水晶から棒状の物体が
ゆっくりと出てきた。少女はそれを掴むと、重さを確かめるように、
くるくると振り回す。
「うん、よさそうですね」
『おはよー、ぷりんちゃん。今日もがんばろうねー』
「はい、がんばりましょう、まるぴん」
 ぷりんちゃんと呼ばれた少女はまるぴんを構えると、力ある言葉を呟いた。
「プリティ・マジカル、サーチライト!」



 月人居住区、礼拝堂。
 猛烈なスピードで飛んでいくリースを見送ると、達哉は席を外したままの
エステルに話しかけた。
「エステルさん。さっきの音は何だったんですか」
「お騒がせしました。実は、満弦ヶ崎周辺には結界のようなものがありまして、
物理的な干渉はありませんが、特定の力……波動のようなものを探知する
ことができます。結界に反応があると、先ほどの警報でお知らせして
くれるんですよ」
 どこか、嬉しそうなエステルさんの口調だった。
「特定の力って、もしかしてロスト・テクノロジーですか?」
「……断言は出来ませんが、その可能性は高いですね」
 壁のスピーカーから聞こえる声が、少し重くなったように、達哉は感じた。
 ロスト・テクノロジーには危険なものもあるという。無事に回収できれば
いいのだが。



 リースは、黒い閃光となって空を翔る。
『高速機動用のウイングモードは、順調のようだな』
「そうだね、クロ」
 クロネコだから、クロ。リースらしいネーミングセンスである。
『もう少しカッコイイ名前がいいのだが……っと、そろそろではないか?』
 使い魔に答えるように、リースは速度を落としていく。
 満弦ヶ崎湾と言っても、特徴的な形状以外には見るべきところはなく、
せいぜいが良い漁場というぐらいだ。さらにその上空というと空と雲しかない。
……はずなのだが。
「……光?」
 リースの進行方向に、円状の光源が見えた。少しずつ移動しながら、雲に
到達すると、光は先ほどよりも、より一層輝いているように見える。
「誰か……いる」
『何、この反応は?』
 リースの視線の先には、光。その光の中に、うごめく何かの姿が見えた。



「反応はありませんねぇ……」
『ぷりんちゃん、大変ー!』
 インテリジェントデバイスのまるぴんが、警告音とともに騒ぎ出した。
「どうかしましたか、まるぴん」
『驚かないでねー、近くに、ワタシと似たタイプがいるよー』
「ええええええええっ」
『驚かないでって言ったのにー』
 ぷりんはきょろきょろと周りを見渡すと、目の前の雲の中に、うごめく
何かの姿を見た。



 リースの目の前に、ひとりの少女がいた。互いの距離は数十メートル。
「クロ、わかる?」
『あの少女が何者かはわからぬが、少女が持っている物なら、おそらくは私と
同じ、インテリジェントデバイスだろう。気をつけろ、リースリット』
 こくりと頷くと、リースは抱えていたクロを放した。落下するわけでもなく、
クロはゆっくりと移動して、リースから距離を取る。使い魔ならではの、
自立飛行モードだ。
 リースはクロが離れたことを確認してから、少女に向かって口を開いた。
「……何をしているの?」
「探し物をしてるんですよ。とっても大切なものなんです」
 にこりと笑って、少女は答えた。
「……何を、探しているの?」
『なんでアンタに答えないといけないのさー』
「こ、こら、まるぴん。そんな口の利き方はダメですよ」
 口を挟んだデバイスに、少女は慌てて嗜めた。
「すみません、この子、普段はとってもいい子なんですけど、ちょっと緊張
してるのかもしれませんね」
「気にしてない」
「ありがとうございます。申し訳ないのですが、探し物については、お教え
するわけにはいきません」
 静かな口調だが、そこには確固たる意思が感じられた。これは、なかなか
手ごわい相手かもしれない。
『ぷりんちゃん、上空に反応だよー』
 まるぴんの声に、全員の視線が重なった。
 上空には、ふわりと浮かぶ青い玉がゆらりと浮かんでいた。
「あれですね! いくよ、まるぴん」
『おっけー、ぷりんちゃん』
『リースリット!』
「……させない」
 まるぴんを構え、玉に向かうぷりん。その前に、黒い翼で立ちふさがるリース。
「邪魔しないでください」
「……」
 視線をぶつけあうふたり。お互いに譲り合うわけにはいかない、その想いが、
それぞれの視線に込められていた。






「エステルさん、さっきリースがやってたことなんですけど、あれはなんですか?」
 お茶を出してくれたエステルに、達哉は早速話しかけた。聞きたいことは
それこそ山のようにあるのだ。
「朝霧さんは、使い魔、という言葉をご存知ですか」
「ええと、魔法使いのペットみたいなやつのことですかね」
「そうです。ここでは魔術的な解釈などは無視していただいてもいいので、
そういう存在だと思っていただければいいです」
 一般的な認識でいいということか。まあ「使い魔」自体、日常的な単語では
ないので、人によっては知識に差があると思うけど。
「ただ、原理については機密事項なのですが、リースが実行したのは、魔術的な
使い魔召喚ではない、とだけ言っておきます」
「と言うことは、やはりロスト・テクノロジーなんですね」
「はい。何でもかんでも、それで説明してしまうのは申し訳ないのですが」
 苦笑を浮かべるエステルさんだった。






「私たちには、とても大切なものなんです。だから、それを邪魔するので
あれば」
 ぷりんはまるぴんの先をリースへ向ける。
「邪魔できないようにするしかありません」
 きっ、とリースをにらみつけるぷりん。リースは無言のまま、
フィアッカを構えた。
「私は……コードネーム、マジカル・ぷりんと言います」
「……リース。リースリット・ノエル」
 互いに名乗り合った直後、ふたりは動いた。
 ガシィッ!
 鈍い音と同時に、衝撃が伝わる。
 リースが、まるぴんの一撃をフィアッカで受け止めたのだ。
 じりじりと力比べに入るかと思ったが、ぷりんは即座に離れた。
「プリティ・マジカル、ライトファイヤー!」
 くるくる回したまるぴんをリースに向けて、呪文を放つぷりん。
 まるぴんから出た炎がリースに向かう。
 サイドステップでかわしたリースだったが、炎がマントに触れた。
『リース!』
 クロは思わず声をあげたが、マントには焦げ跡すらついていない。
『どういうことだ。間違いなく当たっていたはずだが……』
 リースも怪訝な表情を浮かべたが、今すべきことを思い出し、ぷりんの
後を追った。
 時折、炎を放ちながら、青い玉へ向かうぷりん。一方、炎を避けながら
進むリースでは、どうしてもスピードで差が生じ、気が付けば100
メートル近く離されていた。
 このままでは、追いつけない。
 そう思ったリースリットは、黒い翼を広げて急停止する。
「Gモード、クイックスタート」
 フィアッカの形状が変化し、砲身が形成される。
「エラストマー・シュート……1、2、3!」
 1、2、3の声に合わせて3発の黒いゴム弾が射出された。元々は
犯罪者撃退用のゴム弾であり、射程距離もそれほどよくはないものだが、
フィアッカの砲身によって、精度も距離も弾の速度も飛躍的にアップしている。
 空気を切り裂いて、3発の黒い弾がぷりんに迫る。
 しかし、ぷりんはあせることなく、まるぴんを構えた。
「プリティ・マジカル、リフレクション!!」
 呪文と同時に、まるぴんの周囲に円形のフィールドが生まれた。ぷりんに
迫っていた弾は全てフィールドに当たり、同じ速度で跳ね返った。
「……くぁっ」
 1つめ、2つめの弾は避けたものの、3つめはかわしきれずにリースの
腹部に命中した。
 弾の勢いを殺すことができずに、リースは海に落下した。
 ザバァーン!!
『リース!!』
 水柱の元にクロが向かうと、海面にリースが浮かんでいた。
『よし、動くでないぞ、リース。エステル・マジカル、フライング』
 クロの言葉に、ふわりとリースが浮かび上がった。
 そこへ、ゆっくりとぷりんが降りてきた。上空に青い玉がないということは、
ぷりんが回収したのだろう。
「大丈夫ですか、と私が言える資格はありませんけど。本当にすみません」
 リースとクロにぺこりと頭を下げると、ぷりんは去っていった。
『あやつら、いったい何物なのだ……』
 気を失ったリースを見ながら、クロは呟いた。



「ただいま帰りました、恭子」
「あ、おかえり~結。どうだった?」
「はい。ちゃんと回収できました。これがフォステリアナの効果を持って
いるといいのですけど」
 結は机の上に青い玉を置いた。太陽の光を浴びなくても、きらきらと青い光を
放っている青い玉。
「早速チェックするわ。結は休んでなさいな。冷蔵庫にはプリン、入ってるわよ」
「はい、ありがとうございます」
 結は冷蔵庫からプリンを取り出すと、おいしそうに食べ始めた。
「やっぱり、プリンは最高ですね~」
 その様子を見た恭子は、
「アンタは、ほんとにプリンのお姫さまよね」
 と、呆れ顔で呟くのだった。












 to be continued…















 次回予告。



「みなさん、こんばんは。エステル・フリージアです。
 謎の少女に負けてしまったリース。そんな彼女を元気付けようと、
達哉たちはリースを温泉へと誘うのですが……。
 温泉で、思いがけないひとと出会うのでした。
 気になる方は、次回も見てくださいね。
 次回、魔法少女リースリット・ノエル、第5話。
『いったいどっちが大きいの?』。
 次回も、エステルマジカルがんばります!」



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