2007/09/27

「スノーホワイトのバースデー」(Canvas2)(鳳仙 エリス)



「おっはよ! お兄ちゃん♪」
 朝食の準備をしていた浩樹は、見慣れない光景に自分の目を疑った。
 おかしい、アレが見えるわけがないのに。
 もう一度しっかり見ようと、目をごしごしとこすった浩樹は、直前まで
たまねぎを切っていたことを忘れていた。
「ぐおおっ、俺の目が!!」
「だ、大丈夫、お兄ちゃん……」
 心配そうに呟いたのは、浩樹の従兄妹であり、同居人であり、教え子
でもあるエリスだった。



 やわらかな日差しを浴びながらの朝食。普段と違うのは、エリスが浩樹に
起こされもせずに自分から起きてきたことだ。
「だって、今日はわたしの誕生日だよ。一日中楽しいことがあるに違い
ないんだから」
 たまねぎサラダをモリモリ食べながら、エリスはご機嫌だ。
「ま、なんにせよ、早起きはいい心がけだな」
「でしょ? えへへー、朝からお兄ちゃんに褒められちゃった」
「いや、普段から起きていてくれればいいだけなんだが」
 という浩樹の呟きは聞こえているのか、それとも聞かない振りなのか、
エリスはにこにこと朝食を片付けるのだった。



「それじゃ、お昼は学食で待ってるからね♪」
 普段なら、いい加減お兄ちゃん離れでもしろ、というところだが、今日は
エリスの誕生日。
 こんな日ぐらいは、わがままなお姫さまのお願いを聞いてあげよう、と、
学食にやってきた浩樹だが、まわりを見れど探せどエリスの姿はない。
 お昼前の授業が終わるのが遅かったんだろうか。それにしても、すでに
昼休みがはじまってから20分ほど経っている。何か、あったんだろうか。
 そう思って、エリスの教室へ向かう途中で、一人の女生徒に話しかけ
られた浩樹は、急いで保健室へと向かうのだった。



「エリスっ!!」
「こら、静かにしなさい、上倉先生」
 エリスが倒れたと聞かされた浩樹は、全速力で保健室に駆けつけた。
すると、そこには養護教諭ではなく、
「霧、なんでお前がここに……」
「霧じゃなくて、桔梗先生でしょ。ちょうどエリスちゃんが倒れたところに
居合わせてね、ここまで運んできたのよ」
 話を聞いてみると、どうやら女の子が毎月迎えるアレらしく、エリスは
症状が普段から重いのだが、今回は苦しさをこらえて食堂まで行こうとした
ところで、意識を失ったらしい。
「きっと、あんたとの約束が大事だったのよ」
 だから、エリスちゃんを怒らないであげて、と言い残して、霧は保健室
から出て行った。
「ありがとな、霧」
 感謝の言葉を呟いて、浩樹はエリスの枕元の椅子に座った。



「ごめんね、お兄ちゃん」
「ああ。調子はどうだ?」
 顔色は少しよくないものの、辛さはいつもどおり、らしい。
「ま、こういうのはどうしようもないかもしれないが、早くよくなるといいな」
 と言って、浩樹はエリスの頭を軽く撫でる。
「うん、ありがと、お兄ちゃん……」
 安心したのか、エリスはすぐに寝息を立て始めた。浩樹は、昼休みが終わる
まで、静かにエリスの頭を撫で続けるのだった。



 本当なら放課後は友人たちと楽しく過ごす予定だったエリスだが、やはり
体調は戻らず、まっすぐ家に帰ってきた。
「はあ、楽しい一日になるはずだったのに……」
 しょんぼりしながらリビングに入ると、そこには浩樹が待っていた。
「おかえり、エリス。唐突だが、お腹は空いてないか?」
「ただいま、お兄ちゃん。……えっと」
 くきゅるるる~。
「お、その音はもしや」
「言わないでっ! しかたないじゃない、お昼から何も食べてないんだから」
 顔を真っ赤にして弁解するエリス。
「それなら大丈夫かな。ほら、プレゼント」
 そう言って、浩樹は真っ白な箱を取り出した。受け取ったエリスは、
おずおずと箱を開ける。
すると、中には雪のように真っ白なケーキが入っていた。
「あの、お兄ちゃん、これは?」
「スノーホワイトケーキって言ってな、俺が作ってみました。それから、
こっちも」
 浩樹は、真っ白なリースをエリスの頭に乗せた。
「これも名前はスノーホワイトって言うんだ。びっくりしたろ?」
「……うん、これ頭に乗せるものじゃないと思うんだけど」
 白一色で作られたリース。それははじめて見た雪のように、白くきれい
だった。
「でも、ありがと」
 エリスは幸せそうに微笑んだ。



 運悪くアレの日と重なってしまい、気分は最悪だったが、それでも、
浩樹のおかげで幸せな気持ちになることができた。
「ケーキも美味しいし♪」
「ま、喜んでくれたなら、作った甲斐があったってもんだ」
「お返しに、お兄ちゃんの誕生日にはわたしが腕によりをかけてごちそうを
作ってあげるからね♪」
「できれば遠慮したいところだが」
「たらりらったら~ん♪」
「その歌、なぜか冷や汗が出て来るんだが……」
 今日も上倉家のリビングには、楽しそうな笑い声が響くのだった。



おわり♪



あとがき



PCゲーム「Canvas2」のSSです。
エリりんのお誕生日ということで書いてみました。
構想を練る時間が少なかったのですが、楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、また次の作品で。



��007年9月27日 鳳仙エリスさんのお誕生日~



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