2009/11/07

(ぷちSS)「かなでなべ そのさん お鍋の日」(FORTUNE ARTERIAL)(悠木 かなで)



「こーへー、おなべの季節です!」
 唐突にやってきたその人は、食堂で昼食(やきそば定食支倉仕様)を食べようとしてい
た孝平の前に立つと、そう言い放った。
「えと……」
「おおっと、皆まで言わなくてもいいよ。こーへーの言いたいことはわかってるから」
「皆までも何も、まだ言ってもいませんよ。かなでさん」
 孝平の前に立っていたのは、前風紀委員長で前寮長の悠木かなでだった。
「こーへーの言いたい事、それは……わたしへの愛の告白! きゃっ♪」
「それはありませんから」
「ががーん! それじゃ、わたしへの熱愛の告白?」
「それもありません」
「どががーん!! それじゃ……」
 そこへ、孝平にとっては救いの女神の声がかけられた。
「もう、お姉ちゃん。脱線ばかりじゃ前へ進まないでしょ」
「ごめんね、ひなちゃん。久しぶりにこーへーに会ったからうれしくて。というわけで、
こーへー、おなべの季節です!!」
 陽菜にたしなめられたかなでは、最初と同じセリフを再び口にした。



「あのね、今度白鳳寮のイベントで『おなべパーティー』をしようと思うの」
 陽菜も加わってにぎやかになった昼食の席で、陽菜が話し始めた。
「かなでさんの希望が少なからず入っているようだけど、イベント自体はいいんじゃない
かな」
「むー、こーへーの言い方が皮肉に聞こえる」
「気のせいですって」
「ならヨシ!」
 かなでは満足気にふんぞり返った。
「それでね、生徒会にも協力してもらいたいと思うんだけど」
「ああ、俺は大丈夫だと思う。会長と白ちゃんには、今日の放課後にでも話してみるよ」
「その必要はないわ」
 突然の声に振り返ると、そこには修智館学院生徒会長、千堂瑛里華が立っていた。
「こんにちは、えりりん。久しぶりだね」
「お久しぶりです。悠木先輩もお変わりなく」
「えりりん、それはわたしが成長してないっていう意味じゃないよね」
「も、もちろん」
「ならヨシ!」
 かなでは満足気にふんぞり返った。
「『おなべパーティー』かあ、おもしろそうじゃない♪ はるなちゃんの事だから、もう
企画書の草稿ぐらいできてるんじゃないの?」
「うん。まだ書きかけだけど、コピーでよかったら」
 陽菜がかばんから取り出した数枚の紙にさっと目を通した瑛里華はにっこり笑った。
「これなら問題なさそうね。今日の生徒会で一番最初の議題にするわ」
「ありがとう、えりちゃん♪」
 陽菜が瑛里華に微笑み返すのを見て、かなでは
「うんうん、さっすがわたしのヨメとその友だち」
 と、満足気にふんぞり返っていた。



 それから、とんとん拍子に話はまとまって、めでたく『おなべパーティー』開催の日に
なった。
 開催の挨拶は、現寮長の希望で、かなでさんが務める事となった。
「みなさんこんにちは。悠木かなべです」
 ずべしゃあああああっと、みんながずっこけた。
「あ、間違えた。悠木かなでです。ひらがなみっつでかなでです。好きなものはひなちゃ
んです」
「お姉ちゃんったら……」
 なぜか陽菜は顔を赤くしていた。
「つかみはオッケーってことで、そろそろ本題に入ります。今日、11月7日は『お鍋の
日』です。みなさん知ってましたか? わたしは知りませんでした。たまたまラジオを聞
いていたら、パーソナリティーの人が話していて、知ることができました」
 かなではみんなをぐるっと見ると、微笑んだ。
「わたしは思いました。なんて素晴らしい日なんだろうと。大好きなお鍋を思う存分食べ
てもいい日なんです。ダイエットなんて気にせずに、思いっきり、好きなだけ、食べても
いい日なんです。……これは、わたしひとりじゃもったいない、と。そう思ったから、ひ
なちゃんに話をしたら、こうやって『おなべパーティー』にしてくれました。さっすがは
わたしのヨメです。そして、生徒会のみんなが協力してくれて、さらに大きなイベントに
成長しました。ありがとう、えりりん♪ こーへーもしろちゃんも大好きだー」
 そこら中からみんなの笑う声が聞こえて、瑛里華も苦笑気味だ。
「かなでさん。そろそろお鍋が出来上がりますよ~」
 鍋の様子を見ていた孝平が声をかけると、かなでは目を輝かせた。
「待ってました! というわけで、思う存分食べましょう♪ 大丈夫、昔の人は言いまし
た。『体重計、みんなで乗れば、こわくない』」
 その言葉を合図に、『おなべパーティー』ははじまった。



「お疲れ様でした。かなでさん」
「いや~、久しぶりにスピーチすると疲れるねえ」
 と言いながら、疲れたそぶりはかけらも見せない。
「それにしても、お鍋の日なんて本当にあるんですね」
「うん、わたしもビックリだよ。でもね、わたしにとっては毎日がお鍋の日でもいいんだ
けどね♪」
「えと……」
「おおっと、皆まで言わなくてもいいよ。こーへーの言いたいことはわかってるから」
「皆までも何も、まだ言ってもいませんよ。かなでさん」
 言いながら、孝平はデジャブを感じていた。
「こーへーの言いたい事、それは……わたしへの愛の告白! きゃっ♪」
「それはありませんから」
「ががーん! それじゃ、わたしへの熱愛の告白?」
「それもありません」
「どががーん!! それじゃ……」
 そこへ、孝平にとっては救いの女神の声がかけられた。
「もう、お姉ちゃん。脱線ばかりじゃ前へ進まないでしょ」
「ごめんね、ひなちゃん。それじゃ、冷めないうちにお鍋をいただきましょう♪」
 かなでがそう言うと、陽菜が取皿を分けてくれた。
「あ、そうだ。こーへー、今の季節はなんの季節?」
「えーと、おなべの季節ですか?」
 孝平が答えると、かなではにっこりと微笑んだ。
「違うよ、こーへー。かなでの季節です」
 それを聞いた孝平と陽菜は、顔を見合わせて、大笑いするのだった。



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