2006/05/23

(ぷちSS)「バージョンアップ」(夜明け前より瑠璃色な)(鷹見沢 菜月)



業務報告~。
読み物広場に、SS「バージョンアップ」を追加しました。
「夜明け前より瑠璃色な」のヒロイン、鷹見沢 菜月のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





「バージョンアップ」(夜明け前より瑠璃色な)(鷹見沢 菜月)



「もうカーボンなんて言わせないんだから!」
 そう息巻いて、こっそりと料理修行をしていた菜月だったが、そう簡単に
料理の腕前が上がるわけはない。
「ううぅ、今日も半分くらいしか食べられないよ……」
 このままでは、食材たちにも申し訳が無い。
 そう思った菜月は、助けを求めることにした。
「うん。いいよー♪」
 お隣の麻衣に料理を教えてくれるように頼んでみたら、あっさりと了承
してくれた。
 年下の麻衣に教わるのはちょっとだけ恥ずかしいけど、背に腹は
変えられない。
 何より、達哉に食べてもらって「おいしい」って言ってもらいたい。
 その思いが、菜月の背中を押してくれたのだ。
「がんばろうね、菜月ちゃん♪」
 心強いサポーターを得て、菜月は今まで以上に料理の特訓に勤しむの
だった。



「ねえ達哉。……ちょっといいかな?」
 菜月が料理の特訓をはじめて一週間ほど経った日の夕食の席。
「なに?」
「実はね……試食をお願いしたいんだけど」
 トラットリア左門での夕食もそろそろ片付きかけていた時間帯のこと
だった。
 みんな満腹なのか、ゆったりした雰囲気だ。
 そんな中、菜月はおずおずと達哉に話しかけた。
「うん、いいよ」
 菜月が料理の特訓をしていることには気が付いていたので、二つ返事で
了承する達哉。
 菜月はぱあっと顔を明るくすると、ちょっと待っててと言い残して
バックヤードに入っていった。
 そして、ゆっくりとまあるい蓋で覆われたお盆を持って歩いてくる。
 菜月の緊張している様子が伝わったのか、周りのみんなも声ひとつ
立てずに菜月を見守っている。
「ど、どうぞ」
 静かにお盆を達哉の目の前に置くと、菜月はお盆の蓋を取った。



「まあ……、きれいな月」



 隣で見ていたフィーナが呟いた。
 お盆の中には、きれいなまあるい形をしたサニーサイドアップがお皿の
上に載っていた。
 いわゆる目玉焼きだ。
 フィーナの呟きからもわかるように、とってもきれいな形をした目玉焼き
だった。
「焦げてない」
「焦げて、ないね」
「焦げて、ませんね」
 達哉、麻衣、さやかの声がきれいに重なる。
 それを聞いて、ずるっとこけそうになる菜月。
「ひ、ひどいよみんな……」
 『カーボン』という不名誉な菜月の称号を知っているみんなからして
みれば、それは正に信じられない光景だったのだ。思わずそう言って
しまうのも無理はないのかもしれない。
 しかし、その一瞬後、
「すごいよ菜月」
「やったね、菜月ちゃん♪」
「よくがんばりましたね、菜月ちゃん」
「とっても素晴らしいわ、菜月」
「すごいです、菜月さん」
 みんなからの賛辞の言葉が菜月に送られた。
「や、やだ、ちょっとみんな……」
 菜月が「ぼんっ」と顔を真っ赤にしたのを見て、笑いの渦が巻き起こった。



「それじゃ、いただきます」
 達哉は目玉焼きを箸で切り分けると、ゆっくりと口に運んだ。
 ……。
「ど、どうかな?」
「うん、おいしいよ♪」
 焦げ目も無く、味にも申し分ない。多少固焼きにはなっていたが、これ
ぐらいは許容範囲内だろう。
「やった~~!!」
「おめでとう、菜月ちゃん!」
 達哉の言葉を聞いて、文字通り飛び上がって喜ぶ菜月。
「ありがとう、麻衣のおかげだよぉ」
 抱き合って喜び合うふたりは、まるで本当の姉妹のように見えた。
「麻衣のおかげって?」
「実は、麻衣には料理の先生になってもらってたんだ」
「菜月ちゃん、毎日がんばってたんだから。お兄ちゃんは幸せ者だね~」
「ちょ、ちょっと麻衣?」
 あわてる菜月を見て、また笑いの渦が生まれるのだった。



「そうだ。もうひとつあるんだ、ちょっと待っててね」
 菜月は嬉しそうに言うと、再びバックヤードに引っ込んだ。
「デザートってわけじゃないけど、クッキーも焼いてみたんだ~」
 達哉においしいと言ってもらえたのがよほど嬉しかったのだろう、声の
調子からも菜月がうかれているのがわかる。
「たらりらったらったら~ん」
 鼻歌も絶好調だ。……鼻歌?
「るんらら~♪」
 ……ぽんこつ?
「ふんふふ~ん♪」
 これって、もしかして……。
 達哉は麻衣に確認する。
「菜月に料理を教えたのは、麻衣って言ったよな」
 こくり、と頷く麻衣。なぜか顔が引きつっている。嘘だろ……?
「できました~♪」
 満面に笑みを浮かべた菜月は、夜明け前より真っ黒なクッキーを持ってきた。
「さあ、召し上がれ♪」



 その日から、菜月の称号は「カーボン・デスマーチ」にバージョンアップした。





















おわり









あとがき



PCゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
あれ、菜月の誕生日のはずなんですが(わはー






それでは、また次の作品で。



��006年5月23日 鷹見沢菜月さんのお誕生日♪



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