2005/06/08

ジューンブライド (処女はお姉さまに恋してる)(御門 まりや)



業務報告~。
読み物広場に、SS「ジューンブライド」を追加しました。
おとボクのヒロイン、御門まりやさんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞなのですよ~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





ジューンブライド(処女はお姉さまに恋してる)(御門 まりや)






「おはようございます、瑞穂さん」
「おはようございます、まりやさん」
 恵泉女学院の制服に身を包んだ僕を上から下までじろじろとまりやが
見つめる。
「ど、どうかした?」
「んにゃ。瑞穂ちゃんがその格好でいるのも違和感がなくなってきたと
思ってさ」
 ……これは喜んでいいものだろうか。
「褒めてるんだけど?」
「……ありがと、まりや」
 ため息とともに、僕はおざなりな返事を返した。



 恵泉女学院。名前からもわかるように女子校であり、しかもただの
女子校ではなく、有名お嬢さま学校だ。
 お爺様の遺言で、どういうわけか男の僕が女子校に通うことになって
しまった。
 もちろん、そのためには女装しなければならないわけで。
 毎日が新鮮な体験の連続だった。そんな慌しい毎日もそろそろ一週間。
 さわやかな日の光が差し込む並木道をまりやと一緒に登校するのも、
日常となりつつあった……。



「歩き方や立ち居振る舞いは問題ないみたいだけど、まだ若干
『恥じらひ』の気持ちがあるんじゃないの~」
 他人事だと思って、気軽にまりやは言う。
 そりゃ簡単に出来ればいいんだろうけど、恥ずかしいものは
恥ずかしいんだよね…。
「そのうち慣れるとは思うけど……」
 別に慣れたくはないけど、秘密がバレないようにするためにも必要な
ことだろうしなあ。
「そんじゃさ、瑞穂ちゃん。今日の放課後、あたしとデートしなさい」
 …………え?
「ええっ、まりやとデート?」
 まりやの思いもよらない、というか突拍子も無い一言に、思わず
大きな声を出してしまった。
 その声が聞こえたのだろう、近くを歩いていた生徒たちが僕らの方を
見つめる。
「こ、こらこら瑞穂ちゃん。あまり大きな声をださないでよ。
言葉遣いも素に戻ってるし」
 あわててまりやが僕を小声でたしなめた。
「ご、ごめんなさい……」
「あ~、まあ私も言い方が悪かったか。ただちょっとお出かけ
しようって意味だったんだけど」
 予想以上にしゅんとした僕をフォローするように、まりやが言う。
「で、どうかな?」
 まりやはまりやなりに、僕のことを考えてくれてるんだよね、多分。
「別に構わないけど……」
「よかったですわ。それでは、放課後になったら瑞穂さんのクラスに
お迎えに参りますね」
 まりやは嬉しそうに言うと、たたずんでいる僕を置いて、さっさと
歩いていってしまった。
「な、なんなんだろう……」
 いつものことだけど、まりやが何を考えているかよくわからなかった。
 不安な僕の胸中を表すかのように、先ほどまで晴れていた6月の空は、
だんだんと雲に覆われていった。
「……何事もなければいいけど」



 僕の心配をよそに、何事もなく放課後を迎えた。
「こんにちは、美智子さん。瑞穂さんはいらっしゃいますか?」
「あら、まりやさん。ええ、瑞穂さんならいらっしゃいますよ」
「どうもありがとう」
 受付嬢の美智子さんににこやかに微笑むと、まりやは僕のところ
まで歩いてきた。
 まりやも言葉遣いをきちんとすれば、ちゃんとお嬢様に
見えるんだなあ……。
「オッス、瑞穂ちゃん、準備はオッケー?」
 ずるっ
「ん、どったの?」
 先ほどの光景はなんだったのか、いつものまりやの口調になって
いた。まあ、まりやらしいといえばらしいんだけどね…。
「いえ、なんでもありません。今週は掃除当番ではありませんから、
準備はできてますよ」
 気を取り直して返事をする僕。
「あら、おふたりはご一緒にお出かけなのですか?」
 興味があるのか、紫苑さんが会話に加わってきた。
「あ、紫苑様。今日は瑞穂さんとデートなんですの。おほほほほ」
 妙な笑い方をして、まりやは僕の腕を取って、自分の胸に
押し当てる。
 って、まりや胸に当たってるって!
「ん、どうかしたかな、瑞穂ちゃん?」
「あら、瑞穂さん。お顔が真っ赤になっていましてよ?」
 まりやはいつもどおりだし、紫苑さんには冷やかされるし、
僕はこの後どうなるかますます不安になるのだった……。



 それから二時間後。
「ほら~、瑞穂ちゃんがモタモタしてるから雨が降ってきちゃった
じゃない」
「そんなこと言われても……」
 空は完全に薄暗い雲に覆われて、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。



 学院を出てから僕を連れて街にやってきたまりやは、片っ端から
デパートのはしごをした。
 まりや曰く、
「ウインドーショッピングは、女の子なら誰でも好きなものなの。
いつ瑞穂ちゃんも友だちに誘われるかもしれないでしょ。そんな時の
ために、経験を積んでおこうって訳」
 らしい。
 ウインドーショッピングが嫌いな女の子もいるかもしれない。
 そう言ったら、
「確かにそう。だけどね、これが原因で珍しい女の子だなって
思われて、そこから瑞穂ちゃんの正体がバレちゃったらどうするの?」
 なんだか随分思考が飛躍してるなあと思ったけど、絶対ありえない
とは言えないし。
 そんなわけでしぶしぶまりやに付き合ってみたんだけど、まりやは
どこにそんなに元気があり余ってるのか、すごく楽しそうに見て回って
いる。
 それに対して僕は、最初のうちはまだよかったけど、5軒も6軒も
回らされているとさすがに疲れが出始めた。
 疲れから動きがゆっくりしてきたところに、朝から不安定なお天気が
ついにへそを曲げて、雨が降り出したのだった。



「瑞穂ちゃん、傘持ってる?」
「いや、持ってないけど」
 今日の天気予報では夕方から夜半にかけて雨、ということだったので、
早めに帰れば問題ないと思って傘は持ってきていなかった。
「しょうがないなあ。んじゃ、あそこで雨宿りさせてもらいましょ」
 そう言ってまりやが指差した先には、小さな教会があった。
 街中にあるにしてはちょっと寂れた雰囲気のある教会だ。建物は
古い趣があるが、庭には紫陽花の花があざやかに咲き誇っていた。
「ごめんくださーい」
 まりやが物怖じせずに教会の扉を開くと、中には思っていたよりも
たくさんの人が入っていた。
「ん? 教会の人たちじゃないみたいだけど、お取り込み中かな」
「僕に聞かれても困るんだけど」
 教会の中には、あきらかに外部の人間だと思われる人たちが
��人ほどいた。
 その人たちは、教会の扉が開いた瞬間はこっちを見つめたが、
すぐにがっかりしたような様子で話し合いを再開していた。
「どうかなさいましたか」
 教会の奥から、ひとりの初老の男性が近づいてきた。服装から
どうやらこの教会の神父さんらしいことがわかる。
「あの、急に雨が降ってきてしまって、それでしばらくの間雨宿りを
させていただけたらと思いまして……」
「ああ、そういうことならどうぞ。さ、お入りなさい」
「ありがとうございます」
 神父さんは快く雨宿りを承諾してくれた。



 雨宿りでぼーっとしているのもつまらないから、と言って、
まりやは先客らしい人たちに話を聴きに行った。ほんとに元気だなあ……。
「よかったですね。本降りになる前にここに来られて」
「ええ、ほんとに助かりました」
 1人ぽつんと座っていると、神父さんが話しかけてきた。
「でも、あの方たちはよくなかったみたいです」
「……どうかされたんですか?」
「あの方々は、ブライダル関係の撮影をする、ということでこの教会を
借りに来たのですが、急な雨のせいでモデルさんが来られなくなって
しまったようなのです」
 なるほど。それでさっき扉を開けたときこっちを見ていたのか。
「実はこの教会は取り壊しになることが決まっていまして、そのため
今日しかこの場所をお貸しすることができないのです。それでみなさん
お困りになられています」
「そうなんですか……」
 確かに取り壊しが決まっているなら寂れているのも無理はないのかも
しれない。
 あの人たちもお気の毒だけど、僕にはどうすることもできないしなあ。
「いんや、瑞穂ちゃんにしかできないことがあるんだよ」
「うわあ!」
 ま、まりや! 急に現れないでよ!
「え、ぼ……じゃなくて、私にしかできないこと?」
「そ。まあこっちにいらっしゃいな」
 まりやは僕の腕を掴むとぐいぐい引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと何をする気なの?」
「いいからいいから。まりや様にまかせておきなさいな」
 全然安心できないけど、なぜか自信たっぷりなまりやなのだった……。



 さらに二時間後。
「ただいま~♪」
「あ、おかえりなさいなのですよ~」
「おかえりなさい、まりやお姉さま、瑞穂お姉さま」
「……ただいま。奏ちゃん、由佳里ちゃん」
 雨もやんで、僕とまりやはようやく寮に帰ってくることが出来た。
 遅くなった僕らを心配していたのか、奏ちゃんと由佳里ちゃんが
出迎えてくれた。
「お姉さま方の帰りが遅いので、奏たちは心配していましたのですよ?」
「ごめんなさいね、奏ちゃん。傘を持っていなかったから、街の教会で
雨宿りをさせてもらっていたのよ」
 抱きついてきた奏ちゃんの頭をやさしく撫でながら僕は答えた。
「でも、なんだか瑞穂お姉さますごくお疲れのようですけど」
 うっ、由佳里ちゃんはするどいなあ。
「ちょ、ちょっとね。いろいろあったのよ」
「??」
「それは後でゆっくり教えてあげるからさ、早く夕食にしましょうよ。
あたしもうお腹ぺっこぺこ~」
「ふふ、まりやお姉さまったら。わかりました。今すぐ準備致しますね」
「あ~、奏もお手伝いするのですよ~」
 3人は楽しそうにキッチンに歩いていった。
「ほんと、まりやは元気だなあ……」
 ああいうところはすごいなあと思う。



「うわあ~、これ瑞穂お姉さまですか?」
「お姉さま、すごくお綺麗なのですよ~」
 夕食も済んで、食後のお茶の時間。まりやが取り出した写真を見て、
由佳里ちゃんと奏ちゃんが大騒ぎしている。
 その写真には、僕のウェディングドレス姿がしっかりと写っていた。
 まりやに連れて行かれて、なぜか来れなくなったモデルさんの代わりに
僕が新婦役をすることになってしまったのだ。
 最初はまりやの言うことに半信半疑だったカメラマンさんも、僕を見て
その気になってしまい、状況が状況だけに断ることも出来ずに、写真を
撮られてしまった。
「うう、もうお嫁に行けない……」
「瑞穂ちゃんは元々お嫁には行けないでしょうが…」
 小声でまりやが呟く。
「まりやお姉さまもすごくカッコイイです!」
「本当によくお似合いなのですよ~」
「にはは。たまにはこういうのもいいもんだよね♪」
 その写真の僕の隣に写っているのは、新郎役で写っているのは、
御門まりやなのだった。
「まったく、どうしてこういうことを思いつくのかしら…」
「まあまあいいじゃないの。一生に一度の体験なんだからさ、ね?」
 ね?って言われてもね……。
 まりやは嬉しそうに僕の背中をバシバシ叩く。
「一度だけで十分だよ……」
 凹んでいる僕に、まりやが耳打ちする。
「じゃあさ、今度は瑞穂ちゃんが新郎役で、あたしが新婦ってのはどう?」
 ……え、それって……。
 僕にだけわかるようにウインクするまりや。
 ほんと、まりやには一生かなわないかもしれないな……。
 こうして、いつまでも尽きることの無い笑い声とともに、6月の夜は
更けていくのだった……。




































おわり♪


















あとがき
PCゲーム「処女はお姉さまに恋してる」のSSです。
��月8日はまりやのお誕生日ってことで書いてみましたが。
なぜか瑞穂ちゃんが主役に(笑)。
いや、当初はまりやに着せるつもりだったんだけどね?
なんか瑞穂ちゃんのほうがおもしろいんじゃないかと思ってしまい
ましたから~。
さすが瑞穂ちゃん、愛されてるなあ(えー
では次回予告~。



まりや「8月、それは全てが白く輝く季節」
貴子「人気の少ない学院で、奏が出会った人は……」
由佳里「大輪の向日葵がいっぱいの場所に涼しげな風が吹き渡る…」
瑞穂「次回、処女はお姉さまに恋してるSS。『真夏の巡り会い』」
奏「か、奏、期待してもいいのでしょうか?」
紫苑「奏ちゃんならきっと大丈夫ですよ」
奏「どきどきしちゃうのですよ~」
瑞穂「それは、ゆらゆらとゆらめく陽炎が漂う、8月の物語……」






それでは、また次の作品で。
��005年6月8日 御門まりやさんのお誕生日~



0 件のコメント:

コメントを投稿