2008/10/16

(ぷちSS)「両手に花」(FORTUNE ARTERIAL)(東儀 白)



 いつものお茶会の席。
 孝平の部屋のテーブルには、瑛里華、かなで、陽菜、孝平が座っている。
 テーブルの上には、白地の包み紙に覆われた箱が載っている。
「こーへー?」
「ダメです。白ちゃんが来るまで待っててあげましょう、かなでさん」
「わたし、何も言ってないのに……。はっ、もしかして愛し合ってる
ふたりだから、以心伝心ってことなのかな?」
 それを聞いて、苦笑する他三名。
「あー、もうみんなひどいんだー。年上に対する敬意ってものが感じられ
ないよ」
 ぶーぶー、とかなではほっぺたを膨らませる。
「お姉ちゃん、あんまりわがまま言わないの。年上なら、ちゃんと年下の
女の子を待っててあげないとね」
 やれやれと思いながら、陽菜がかなでに言う。
「わかってるけどさあ、目の前においしそうなものがあると、ね?」
「ね? じゃありません。悠木先輩も、白の大好物は知っているでしょう?」
 今度は瑛里華が、かなでを諭していた。



 テーブルの上には、箱が載っていた。
 中身はきんつば。白の大好物だ。先日の連休に島の外に出かけた時に、
白がおみやげにと買ってきたものだ。
「みなさんでいただきましょう♪」
 と言って準備をはじめようとした時に、白の兄の征一郎から連絡があり、
少しだけ席を外さなくてはならなくなったのだ。
「それじゃあ、白ちゃんが来るまで……えーと、しりとりでもしてましょうか。
じゃあ、きんつばの”ば”から。はい、かなでさん」
 間をつなごうと、孝平が提案した。
「ばくだん♪」
 いきなり終わった。
「お姉ちゃん……」
 陽菜が悲しそうな顔をした。
「じょ、冗談だってば。”ばくだんま”。はい、えりりん!」
「爆弾魔って、ずいぶん物騒ね……。ま、ま、”マリー・アントワネット”。
はい、陽菜」
「と、と、東儀白ちゃん♪」
 ん、で終わっていた。
「ごめん、じゃあ、”東儀上水”。いいよ、孝平くん」
「い、い、”委員会活動”」
「……」
「あれ、何かおかしかったですか」
 首をすくめてアメリカ人っぽいしぐさをするかなで。
「ムシロ、オモシロクナーイ」
「支倉くん。少しはネタをしこまないと、今の世の中、やっていけないわよ」
「そうだよ、孝平くん」
「なんでしりとりでダメだしされなきゃならないんだー?」
 三人の容赦ないツッコミが孝平に襲い掛かった。



「お待たせ致しました~。……あれ、支倉先輩どうされたんですか」
 用事を済ませて戻ってきた白が目にしたのは、部屋の隅っこでひとり、
ツッコミの練習をしている孝平の姿だった。
 なんでやねん、なんでやねん、……。



 白が戻って来た。
 孝平の部屋のテーブルには、瑛里華、かなで、陽菜、孝平、白、そして
「どうして私が……」
 桐葉が座っていた。
「談話室にいらっしゃったので、お誘いしたんです。お友だちを呼んでもいい、
ということでしたよね?」
 にこにこと白が言うのを見て、あきらめたように桐葉は溜息をついた。
「ああ、構わないよ。副会長も、いいよな?」
「ええ。大切な白のお友だちですもの」
 嬉しそうな瑛里華に、ふん、とそっぽを向く桐葉だった。



「今日のお茶菓子は、『どぶろくきんつば』です♪」
 白がうれしそうに包み紙を開けている。
「どぶろくって、濁り酒のことよね?」
 瑛里華が口を開くと、珍しいことに桐葉が答えた。
「……炊いたお米に麹や酵母を混ぜて作るお酒のこと。勝手に作ると
罰せられるそうよ」
「へ~、さすが紅瀬さんだね」
 感心する陽菜。
「別に、たいしたことじゃないわ。むしろ、知らないほうが珍しいんじゃ
ないかしら」
 にやりと、瑛里華に対して不敵な笑みを浮かべる桐葉。
「別に間違って覚えていたわけではないでしょ!」
「まあまあ、えりりんもきりきりもそれぐらいにしなよ」
 今、それぞれの目の前には透明の薄いフィルムに包まれたきんつばが、
ひとつずつ置かれている。
「では、いただきま~す♪」
 かなでの声に続くように、それぞれきんつばを手にとった。
 包みを開くと、まずはじめにどぶろくの匂いが漂う。
「うわ、けっこう匂いキツイんだな」
 孝平は顔をしかめた。
 わざわざ匂いを嗅ぐまでもなく、きんつばからはどぶろくの匂いが
ぷんぷんしている。
「あら、でも食べてみると、甘くておいしいわね」
 意外な甘みに、瑛里華は笑顔になる。
「ほんとだ、これなら平気かな。紅瀬さんはどう?」
「ええ、もう少しお酒が入っていてもいいのだけど、おいしいわね」
 しれっと答える桐葉に、苦笑する陽菜だった。
「でも、これぐらいがちょうどいいんじゃないか。お酒が強いと、食べられ
ない人もいるかもしれないし。ね、白ちゃん」
 と、孝平が白に話しかけると、白は目をとろんとさせている。
「……なんですか、はせくらせんぱい♪」
 白はにこにこしている。
「あ……えっと、白ちゃん、だいじょうぶ?」
「わたしはらいじょうぶれす。はせくらせんぱいこそ、どうしてふたごに
なっているのでしゅか~」
 きんつばを頬張り、にこにこと笑っている。
 …………。
「もしかして」
「多分、どぶろくのせいね」
 瑛里華が断言した。
「私たちには平気だったけど、白にとってはこの量でも酔っ払ってしまう
みたいね」
「なんだかぷかぷかします~」
 白は孝平にもたれかかって、嬉しそうに笑っている。
「ま、害はなさそうだし、しばらく支えてあげなさい」
「……ま、白ちゃんならいいか」
「あー、こーへーずるいんだー。わたしもー」
 かなでが孝平にもたれかかってきた。
「なんだかぷかぷかするねー」
 ……。
「えっと、お姉ちゃんもお願いしていいかな、孝平くん」
 申し訳なさそうに陽菜が言った。
「両手に花ね」
 楽しそうに言う桐葉に、孝平は苦笑するしかなかった。






 おわり



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