2006/12/24

「M & W」(Canvas2)(竹内 麻巳)



業務報告~。
読み物広場に、SS「M & W」を追加しました。
「Canvas2」のヒロイン、竹内 麻巳のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





M & W(Canvas2)(竹内 麻巳)



 12月にしては珍しいほどあたたかい日だった。
 町はすっかりクリスマスカラーに染まっているというのに、エアコンを
つけなくても平気なくらいだ。
 こんな日はのんびり昼寝でもしているのが贅沢な休日の過ごし方と
いうものだと思うが、あいにく今日は出かける予定だった。
「ま、しかたないよな」
 家での惰眠をあきらめつつ、どうせ出かけるのだからと、絵の具と
絵筆を持って家を出た。



 やわらかな日差しを浴びながら歩いていると、ジャージ姿の霧と
出くわした。
「あら、浩樹じゃない。こんなところで会うなんて珍しいわね」
「こんなところって、撫子の正門前で会うのがそんなに珍しいかね」
「平日ならね。でも今日は日曜日でしょ。ぐーたらなアンタが日曜に
学園に用があるなんて思えないもの」
 確かに霧の言うことはもっともで、今日の用事は学園に関係ないんだが、
どうしてそこまで言われなければならないんだろうか。
「そういうお前はどうなんだよ。もしや、休みでもバスケ部の
コーチってか?」
「そうよ」
 おいおい、ほんとかよ。いや、霧ならありうるか。
 去年の冬、霧が赴任してきてから撫子の女子バスケ部は変わった。
 それまでもそこそこの成績を残していたが、一気に全国の強豪へと
のし上がったのだ。
 誰の目にも、霧の指導の賜物だということは明らかだった。
「私としては、日曜日くらいは練習を休みにしてもいいと思うんだけど、
生徒たちがやりたいっていうんだから、教師としては無下に断るわけにも
いかないじゃない」
 まあ、そらそうだな。
「私としてもあの子達に強くなって欲しいし、出来るだけのフォローを
してあげたいのよ」
「ああ、そうだな。じゃ、がんばれよ」
「言われなくてもがんばるわよ。アンタも、せっかく絵の具持ってる
みたいだし、何枚か絵を描いてみるのもいいんじゃない」
「ま、気が向いたらな」
 俺はひらひらと手を振って、霧と別れた。
 言われるまでもなく、そのつもりで持ってきたんだからな。
 しばらく歩くと、公園に着いた。
 約束の時間は夕方なので、まだずいぶんと早い。つーか、まだ昼前だ。
「そういや、昼飯を食べてこなかったな」
 そう思った途端、腹の虫がにわかに騒ぎ始めた。



「いらっしゃいませー。……浩樹さん?」
「よ、麻巳。ちょっと腹がへったんで、昼メシ食べに来たよ」
「はあ」
 なんだ、その反応は。
「どうかしたのか」
「いえ、今夜の夕食をご一緒する予定でしたのに、突然お昼時に
浩樹さんが来たことに麻巳ちゃんはびっくりしているところです」
 おいおい麻巳ちゃんて。わざわざ解説することでもないと思うが……。
「俺もそう思わないでもなかったが、昼メシを食べるのを忘れていてね、
思い浮かんだのがこの『やどりぎ』だったってだけだ」
「私としては、売り上げに貢献していただけるので嬉しいところですが、
その反面、予定の時間まで浩樹さんと会えない時間を空想して楽しむ
ことが出来なくなってしまうわけで、なんだか微妙です」
 ふむ、そんなもんかね。
「俺としては、早く麻巳に会えて嬉しいと思っているけど、麻巳は
そうじゃないのか」
「いっいえ、そんなことありません。……嬉しいです」
 俺がそう言うと、やっと麻巳は嬉しそうな表情になった。



「ごちそうさま。会計頼むよ」
「あ、はい。……えっと、900円ですね。もう行かれるんですか」
「……ほい。せっかくいい天気だし、公園でスケッチでもしようと
思ってな」
 俺は代金を麻巳に渡すと、道具を持って扉を開けた。
「それじゃあ、また後でな」
「はい。では後ほど」
 麻巳の笑顔に見送られ、俺は『やどりぎ』を後にした。
 ぽかぽか、という表現がぴったりな陽気の中をゆっくりと歩いて、
よさそうな構図を探す。
 最初からモチーフがあるわけでもない、時間の制限があるわけでもない。
 ただ、描きたいものがあったら描く。
 そんなシンプルな気持ちで歩くと、不思議なことにどの景色もいいものに
見えてくる。
 池の周りを一周、二周。三周目に入って、俺は池の真ん中の東屋に
座っていた。
 やれやれ、なかなか決められないのも困るものだな。
 ほんの少し休憩しようと思って座った座席だった。
 見上げると、空は高く、ひとすじの飛行機雲がぼんやりと伸びている。
 しばらく眺めた後、俺は携帯式のイーゼルをセットしていた。
 わざわざ公園に来て、その上の空を描こうだなんて、俺もよっぽど
変わり者だな、と思いながら。



「こんにちは。浩樹さん」
 そう言って、ひょっこり現れたのは麻巳だった。
「よお。よくここがわかったな」
「わかりますよ、浩樹さんのことですもの……と言いたいところですが、
公園を散歩していたら偶然見つけちゃいました」
 にっこりと微笑む麻巳。よく見ると、まだ麻巳はお気に入りの
メイド服を着ている。
 俺の視線に気づいた麻巳は、少し恥ずかしそうにうつむく。
「実は、父にお使いを頼まれまして、その帰りなんです」
「だったら、こんなところで油を売っていないでさっさと戻ったほうが
いいんじゃないか?」
「ちょっとだけです。それより、どんな絵を描いているんですか?」
「見てみるか」
 俺はイーゼルを動かして、麻巳に見えるようにしてやった。
「……飛行機雲、ですか」
「ああ」
「でも、どこにも見えないんですけど」
 麻巳は空を指差す。確かに、今の空には飛行機雲は浮かんでいなかった。
 俺は筆を動かしながら言う。
「見えないと、描いちゃいけないのか?」
「え?」
「ここに座った時は、飛行機雲があったんだよ。きっと描いているうちに
消えてしまったんだと思う。でも、俺の頭の中にはその風景は残って
いるから、キャンバスに描くことは出来る」
「あ……」
 見えるものがすべてじゃない。
 人の心も、咲かない桜も、消える飛行機雲も、キャンバスには描くことが
できる。
 いつでもどこでも、絵の具と絵筆があれば、キャンバスには自由に
描くことができるんだ。
「そうですね。浩樹さんの仰るとおりです」
「だろ?」
「ええ。卒業してからも、浩樹さんにはいろいろ教わってばかりですね」
「ほ、褒めても何にも出ないぞ」
「わかってますよ。出すのはこちらです。はいっ、どうぞ♪」
 麻巳は、手提げ袋の中から何かを取り出した。
「なんだ、これ」
「ワッフルですよ。うちのお店で出しているメニューなんです。
美味しいですよ」
 どうして麻巳が今これを持っているのか、聞きたいのは山々だったが、
その笑顔に水を差すのはさすがに野暮ってもんだろう。
「ああ、ありがとう」
「はい、あ~ん♪」
「……」
「あの、浩樹さん。そこは『あ~ん』って言うところですよ?」
「言われなくてもわかるわっ! いや、そうじゃない、そんなこと
出来るかっ!」
「いいじゃありませんか。誰も見てませんし」
 ま、確かにまわりに人影はいないんだが。
「それとも、私ではお嫌なんですか……」
「そ、そういうわけじゃない」
「じゃあ、いいですよね♪」
「くっ」
 俺はきょろきょろとまわりを確認してから、あ~んと口を開けた。
「はい、どうぞ」
 口の中に入れられたワッフルは、コーヒーの味がした。
「これ、コーヒー味なんだな」
「ええ。茶色だからチョコレート味だと思われる方が多いんで、
うちではコーヒー味にしてあるんです。先ほど浩樹さんも仰っていたじゃ
ありませんか。見えるものがすべてじゃないって」
 確かにそうだな。
「浩樹さんもそうですよね。見た目は目つきが悪いけど、実はけっこう
やさしい人ですから」
 それは、褒めているんだよな?



























おわり♪



あとがき



PCゲーム「Canvas2」のSSです。
��2月24日は竹内麻巳さんのお誕生日ということで書いてみました。
当初、構想していたものとは中身が変わってしまいましたが、これはこれで
いいかな。
あまりラブラブなものは書けませんが、その分気楽に書けていると思います。
それでは、また次の作品で。



��006年12月24日 竹内麻巳さんのお誕生日~



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