2007/04/14
「ふたつき遅れの……」(Canvas2)(竹内 麻巳)
桜の花も散り始め、葉桜がぽつぽつと出始めた頃のある日。
あたたかな日差しをまぶしく感じながら、キッチンに私は立っていた。
「よし。これなら……」
ひとりごとを呟きながら慎重に慎重に作業を進めて、ついにそれは
完成した。
あとは、これを渡すだけだ。むしろ問題は、こちらのほうにあるのかも
しれない。
閉じようとする目蓋を、父特製のコーヒーで強制的に開けて、私は
撫子学園に向かって歩いた。
なんとか遅刻することなく学園に着くことができて、私は安堵のためいきを
ついた。
「ふう……」
「お、珍しいな。竹内がためいきなんて」
「か、上倉先生っ!?」
突然の声に振り向くと、そこには撫子学園の美術教師であり、我が美術部の
顧問でもある上倉浩樹先生が立っていた。
「いや、なんでそんなに驚いてるんだ? と思うが、とりあえずおはようと
言っておこうか」
「あ、お、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「……」
「……」
どのように渡そうか、とここに来るまでの間にいろいろと考えていたけど、
いきなり目の前に現れるとどうしたらいいのだろう。
ペースを乱された私にはどうすることも出来ず、かと言ってこのままでは
先生に不審に思われてしまうかもしれない。
とりあえず言い訳をしようと口を開きかけた時、救いの神はやはり唐突に
現れた。
「おっはよーー、セーンセーーーーっっ!!」
「ぐはっ」
奇妙なうめき声を出して、上倉先生がうずくまった。
「だーかーら~、オマエは俺にタックルするのをやめろといつも言ってる
だろーが~、萩野」
「もー、やだなあセンセー。これはちょっとした愛情表現なんだから」
いつものようにあっけらかんと笑う萩野さん。
この撫子では見慣れた風景のひとつだ。
先生にはお気の毒だけど、私にとっては救いの神。
ありがたくその恩恵を受け取り、私はそそくさとその場を離れた。
つづく
うわー、二場面しか書けなかった。
明日には続きを書きます。予定ですが。
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