2007/04/08

「桜の花をながめよう」(夜明け前より瑠璃色な)(エステル・フリージア)



 四月に入り、おだやかな日が続くのかと思えば、三月よりも寒くなったりと、
今年は少し天候がおかしいようだ。
 月では重力制御も天候のコントロールもしっかりされているが、ここ地球では
そんなことはなく、自然のまま。
 空に浮かぶ雲のように、常に同じものはない。
 それは人の心も、似たようなものかもしれない。



「お花見、ですか?」
「ええ。春はお花見のシーズンと言いまして、桜などの花をながめながら楽しく
ご飯を食べたりするんです」
 いつものようにエステルの買い物に付き添っての帰り道で、達哉はお花見に
ついて話していた。
「桜が咲いている期間はだいたい一週間ほどなので、エステルさんの都合が
よければ、どうでしょうか」
「そうですね。……今週は少し忙しいのですが、週末の土曜日の午後なら時間は
取れると思います」
 エステルの返事に、達哉の表情も明るくなる。
「よかった。では、土曜のお昼過ぎに迎えに行きますね」
「わかりました。ところで、どこのお花を見に行くのでしょうか?」
「それは、当日のお楽しみですよ」
 
 土曜日。エステルを伴って、達哉がやってきたのは朝霧家だった。
「確か、達哉の家には桜の木はなかったように思うのですが……」
「はい、そうですよ。ここではちょっとお色直しをしていただきますので」
「え?」



「おまたせ~、お兄ちゃん……」
 妹の麻衣にエステルの着替えのサポートを頼んだら、しばらくして
しょんぼりした表情で麻衣が部屋から出てきた。
「どうした、麻衣。何かあったのか」
「ううう、あらためて事実を突きつけられてショックを受けている麻衣ちゃん
なのですよ……」
「?」
 なぜか力を落とした麻衣が気になる達哉だったが、その時、麻衣の部屋から
エステルが出てきた。
「あ、あの、どうでしょうか」
 目の前には、カテリナ学院の制服に身を包んだエステルが立っていた。
 少し窮屈そうにしているのは、着慣れない制服のせいだろうか。
「ええ。よく似合っていますよ。それならばっちりカテリナの生徒です」
「そうですか……よかった。実は、少し胸元がきついのですが、達哉が
そう言ってくれるのならよいのでしょう」
「うわああん、やっぱりだー」
 麻衣が泣きながら部屋に駆け込んだ。



 結局、麻衣は部屋から出てこず、フィーナは公務、ミアはその補佐。さやかも
博物館にあらたな展示物が届くとかで時間が取れず、達哉とエステルはふたりで
出かけることになった。
「達哉さん、これをお持ちください」
 そう言って、ミアが渡してくれたのはお弁当だった。
「いつもありがとうミア」
「残念ながらわたしと姫さまは参加できませんが、その分も達哉さんと司祭様は、
楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます、ミアさん」
 達哉とエステルはミアにお礼を言い、朝霧家を出た。



 カテリナ学院に着いた。まだ四月のはじめなので授業ははじまっておらず、
部活動をしている学生が何人かいるぐらいだ。
 学院の裏手に回ると、見事なまでに満開の桜が植えられており、ちょっとした
並木道になっている。
「……すごい」
「ここは学院の中になるので、学院の関係者だけが楽しめる穴場なんですよ。
もちろん、一般の方が入っていけないわけではないんですが、あまり堂々と
学院内には入ってこないものなので」
「なるほど。……では、制服を着る必要もないのでは?」
「……ええ、まあ」
「……」
 ぴしっと、達哉の頭にチョップが炸裂した。
「すみません。エステルさんの制服姿が見てみたかったので、嘘をつきました」
「まったく、貴方というひとは。……仕方のないひとですね」
 そう言いながらも、エステルは笑顔だった。
「あの、先ほども言いましたけど、とってもよく似合っていますよ」
「おっ、同じことを二度も言わないでください。なんだか恥ずかしくなって
きます……」
 エステルの顔が、桜と同じ色に染まった。
「べっ、別に達哉に喜んでもらっても嬉しくありませんっ」
 エステルは右手を頬に当てて、そう言った。
 その特別な癖に気づいた達哉の顔も、エステルと同じく桜色に染まった。












おわり



あとがき



PS2ゲーム「夜明け前より瑠璃色な」のSSです。
以前と同じく、ブタベストさんの4月5日付けの絵がきっかけとなって
生まれた作品です。
時期的にお花見を重ねつつ、今回もエステルさんにお着替え願いました。
ちょっと強引だったかな。



それでは、また次の作品で。



��007年4月8日 桜は今が見頃です♪



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