2006/02/26

ゆかりんのハンバーグ大作戦!(処女はお姉さまに恋してる)(上岡 由佳里)



業務報告~。
読み物広場に、SS「ゆかりんのハンバーグ大作戦!」を追加しました。
おとボクのヒロイン、上岡 由佳里ちゃんの聖誕祭用のSSです。
上のリンクからでも下のリンクからでも、お好きなほうから
どうぞです~。
上はいつものhtmlで、下ははてな仕様になります。





ゆかりんのハンバーグ大作戦!(処女はお姉さまに恋してる)(上岡 由佳里)



 2月も半ばを過ぎて、徐々に冬の名残は無くなりつつ、少しずつ
春の匂いが漂うようなそんな天気が続いていた。
 バレンタインデーに学院のみんなから大量にもらったチョコのことは、
瑞穂にとっては忘れられない想い出だが、まだ2月には大切な日が
残っていた。



 コンコン、とドアをノックするとすぐに、
「はーい、どなたですか?」
 という元気の良い返事が部屋の中から聞こえてきた。
「あ、瑞穂お姉さま♪ どうかしましたか?」
 部屋から出てきた由佳里は、外にいたのが瑞穂だったので嬉しさを
隠せない様子だ。もっとも、普段から由佳里は感情を隠したりはしないが。
「こんばんは、由佳里ちゃん。ちょっとお話があるのだけど、いいかしら」
「あ、はい。いいですよ、どうぞどうぞ」
 由佳里はにっこりと笑って、瑞穂を部屋の中に招き入れた。
「由佳里ちゃんは……勉強中だったのかしら? ごめんなさいね、邪魔を
してしまって」
 瑞穂は由佳里の机の上に教科書が開かれているのを見て、申し訳
なさそうに言う。
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと予習をしていただけで、宿題はもう
終わってますから」
 ちょっとだけ得意げに語る由佳里。
 そんな由佳里を見て、瑞穂は嬉しそうに微笑んだ。
「そう、よかったわ。由佳里ちゃんの邪魔をしていたらと思うと
申し訳ないもの」
「大丈夫ですよ、お姉さま。お姉さまが邪魔だなんて、そんなことは
絶対にありませんから」
「……ありがとう、由佳里ちゃん」
 瑞穂は、思わず由佳里を抱きしめそうになったが、寸前で堪えて、
由佳里の頭をそっと撫でた。
「あのね、実は由佳里ちゃんの都合を教えて欲しかったの……」



 2月18日。その日は土曜日で、学院も休日だった。2月にしては
あたたかくて、風も心地良く感じる朝だった。
 気持ちのいい日差しが降りそそいでいる寮の前に、2人の姿が現れた。
 瑞穂と、由佳里だった。
「晴れてよかったわね、由佳里ちゃん」
「はい! とっても嬉しいです。だって、お姉さまとデートできるん
ですもの♪」
 由佳里の口からは、チャームポイントの八重歯がにぱっと見えていた。
「まさか、お姉さまの方からデートに誘っていただけるなんて、思って
ませんでした」
「あら、イヤだった?」
 からかうような口調の瑞穂に、由佳里は困った表情を浮かべた。
「ふふっ、ごめんなさい。由佳里ちゃんって、なんだかからかって
みたくなっちゃうのよね。まりやも多分、同じような気持ちなんじゃ
ないかしら」
 瑞穂の幼馴染で、由佳里の『お姉さま』でもある御門まりやは、
『妹』である由佳里のことをよく可愛がっていると同時に、
からかってもいた。
 まりやはきっと、からかっている由佳里の反応が楽しくて仕方が
ないのだろう、と瑞穂は思った。
「かっ、からかわれるのはあまり嬉しくないんですけど……」
 そんな複雑な感じの由佳里の表情がとっても可愛らしいと瑞穂は
思うのだが、それを言うと由佳里はもっとむくれてしまうだろう。
瑞穂は由佳里の手をそっと握ると、由佳里に謝った。
「ごめんなさい。もうからかったりしないから、許してね」
「う~、お姉さまにそんなこと言われたら許さないわけにはいかない
じゃないですか。わかりました。今回だけですよ?」
「ええ。じゃあ行きましょうか、由佳里ちゃん」
「はい♪」
 瑞穂と由佳里は微笑みあうと、手を繋いだまま歩き出した。



 瑞穂と由佳里は電車を乗り継ぎ、バスを乗り継ぎ、そして森の中を
歩くこと数十分。2人は大きなドイツ風の建物の前に立っていた。
「瑞穂お姉さま、ここが『ハンバーグミュージアム』です!」
「…………『ハンバーグミュージアム』なのね」
 瑞穂は目の前の建物を見上げた。先端が鋭角に尖った2つの塔が
目に入る。それほど建築様式に詳しくない瑞穂だが、なんとなく
ドイツ風の建物だろうと感じた。
「ここはですね、ドイツにあるネコ城をモチーフに建てられたそうです。
森の中にあるから、いかにもドイツっぽいですよね~」
 うきうきと由佳里が瑞穂に話しかける。
 今日のデートは「由佳里が行きたいところに行く」という予定だった
ので、瑞穂は行き先を全く知らされていなかった。
「由佳里ちゃんは、ここのことを知っていたの?」
「いえ、知っていたのは名前だけなんですけど、今日のデートで
お姉さまと一緒に行けると思って、奏ちゃんにも手伝ってもらって
調べたんですよ~」
 由佳里と奏が一生懸命調べている様子を思い浮かべて、瑞穂は
微笑んだ。
「それにしてもネコ城って珍しい名前ね。そういう名前のお城が
あるのかしら」
「はい! え~とですね、14世紀にカッツェンエルンボーゲン伯爵と
いう方が建てられたそうです」
「カッツェンエルンボーゲン伯爵……あ、なるほどね。だから
『ネコ城』って呼ばれてるのね」
 瑞穂が納得したような表情だったので、由佳里は不思議に思った。
「あのね、ドイツ語ではネコのことを『カッツェ』と言うの。だから
ネコ城という名前になったと思うんだけど」
「……あ、その通りです! 奏ちゃんが調べてくれたメモによると、
そうらしいですね。こうやって下調べしておくと、いろいろなことが
わかっておもしろいですね」
「そうね、ふふっ、よかったわね、由佳里ちゃん」
「はい♪」
 由佳里は満面の笑顔で頷いた。



 重厚な作りの門をくぐると、そこはホールになっていた。外観から
感じるのは古城といった雰囲気だったが、中は近代的な作りで採光も
考えられているようで、思ったよりも明るい、と瑞穂は感じた。
「へえ~、中は意外にきれいなのね。雰囲気があっていいわね」
「そうですね。奥の方からお肉のいい匂いも漂ってきてますし、
とっても期待できそうですね!」
「……由佳里ちゃん、目がとってもきらきらしているわよ」
「え、何か言いましたか、お姉さま?」
 どうやら、由佳里の感覚はハンバーグの方に集中しているらしい。
 瑞穂は微笑を浮かべて、由佳里の手を握った。
「行くわよ、由佳里ちゃん」
「は~い♪」
 幸せ満点の由佳里だった。



 ホールを進んでいくと、壁には額に納められたハンバーグの写真が
飾られており、ハンバーグの歴史が紹介されている。
「えっと、ハンバーグはドイツのハンブルグで考案されたのが名前の
由来と言われている、かあ。うーん、テストにハンバーグのことが出たら、
きっとわたしすごくいい成績だと思います」
 ハンバーグについての紹介をまじめな顔で読みながら由佳里が言うので、
瑞穂は思わず笑ってしまった。
「そうね、由佳里ちゃんなら満点かもしれないわね」
「そうですよ。お題が「ハンバーグ」のあいうえお作文とかなら、すぐに
作っちゃいますよ。



『ハンバーグったらハンバーグっ♪



 ハッピーになれます♪
 ん~、美味しいって言っちゃいます♪
 バンザイしちゃいます♪
 熱々のまま召し上がれ♪
 グッドな一品、ハンバーグで~す♪



 ハンバーグったらハンバーグっ♪』



 独特の節を付けて歌う由佳里に、思わず拍手をしてしまう瑞穂だった。



 ホールの奥には食事が出来るようなスペースが設けられていた。
「あの、瑞穂お姉さま?」
「ええ。せっかくここまで来たんだもの。お食事していきましょうか」
 そわそわしている由佳里の態度から、このためにここに来たという
ことが一目瞭然だったので、瑞穂たちはここで食事を取る事にした。
 メニューの内容はさすが『ハンバーグミュージアム』といったところか、
グリル、荒挽き、ジャーマン、ガーリック、チーズ、トマト、スパイシー
……と、この他にも多くの種類があり、目移りしてしまうことが必至
だった。
 おそらく由佳里だったら毎日でも通いたいと思うことだろう。目を
皿のようにしてメニューを覗き込んでいる由佳里を、瑞穂はやさしげに
見守っていた。



「ごちそうさまでした♪」
 ハンバーグをきれいに食べ終えた由佳里は、今日の中で1番嬉し
そうな表情だった。
「お肉の焼き加減も、挽き肉の絶妙な割合も、深いコクのあるソースも、
付け合わせの温野菜も、もう、どれもこれもと~っても美味しかった
ですっ。瑞穂お姉さまはいかがでしたか?」
「ええ、美味しかったわ。恵泉の食堂のハンバーグランチも美味しいけど、
ここのハンバーグはそれ以上ね。それほど舌が肥えているわけではないの
だけど、そう感じたわ」
 いつも以上に目をキラキラさせている由佳里は、瑞穂もハンバーグが
美味しいと感じてくれていることがわかって、もっと嬉しくなった。
「それにね、由佳里ちゃんの顔を見ていたら、それだけでも美味しく
なると思うわ」
 瑞穂が何気なく言った一言で、由佳里の顔は真っ赤になった。
「い、嫌ですよ、お姉さま。からかわないでください……」
「あら、私は本当のことを言っているだけなのだけれど。さて、そろそろ
帰りましょうか」
 瑞穂たちは代金を払って、進んできた道を戻っていった。
 門をくぐり抜けて外に出ると、太陽はかなり傾いていて、空は茜色に
染まりかけていた。
「思ったよりも長く入っていたみたいですね」
「そうね、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものなのね……」
 恵泉女学院に編入してから今日までの約9ヶ月、瑞穂にとっては本当に
楽しい時間だった。
 瑞穂はふと、今までの学院生活のことを思い出していた。
「……瑞穂お姉さま?」
「ああ、由佳里ちゃん。ごめんなさいね」
 瑞穂はにっこりと微笑むと、ポケットに忍ばせていた包みを取り出した。
「由佳里ちゃん。お誕生日おめでとう」
 そう言って、瑞穂は由佳里に小さな包みを手渡した。
「お姉さま……ご存知だったんですか」
「ええ、まりやから聞いていたの。たいしたものではないのだけど、
受け取ってもらえるかしら」
「……はいっ! どうもありがとうございます♪」
 由佳里は目の端にわずかに涙を浮かべて、瑞穂にお礼を言った。
「それでは、遅くならないうちに帰りましょう。きっと、寮では寮母さんが
美味しいお料理を作って待っていてくれるはずだから。まりやと奏ちゃんが
由佳里ちゃんのお誕生日会をやるんだってはりきっていたもの」
「まりやお姉さま……奏ちゃん……」
 由佳里は嬉しさでいっぱいのようだった。
「きっと今日の夕食はハンバーグよ。由佳里ちゃん、お昼にたくさん
ハンバーグを食べたけど、大丈夫かしら?」
 瑞穂がからかうように言うと、由佳里は自信たっぷりに胸を張って答えた。
「大丈夫ですっ! ハンバーグは別腹ですから♪」
 茜色の空に、瑞穂と由佳里の笑い声がいつまでも響いていた……。


















おわり









あとがき



PCゲーム「処女はお姉さまに恋してる」のSSです。
少し遅くなってしまいましたが、由佳里ちゃんのお誕生日ということで
書いてみました。
やっぱりハンバーグは欠かせないですよね(笑)。
余談ですが、作中に出てくる『ハンバーグミュージアム』というのは
実在しませんが、ネコ城という名前のお城は本当にあるそうです。
びっくりですね。



次回、最終回予告。



奏「3月、それは巣立ちの季節」
貴子「いよいよ卒業を迎える私たち」
まりや「いろんなことがあったけど、最後はやっぱりハッピーに!」
由佳里「早咲きの桜が、恵泉の皆を祝福する…」
紫苑「最終回、処女はお姉さまに恋してるSS。『未来への鍵、はばたく翼』」
瑞穂「それは、誰もがあたたかい気持ちになるような、桜舞う3月の物語……」



それでは、また次の作品で。



��006年2月26日 上岡 由佳里ちゃんのお誕生日の8日後~



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