2005/03/22

「未来への想いを胸に」(君が望む永遠)(涼宮遙、速瀬水月、涼宮茜)



「おめでとう!」
 声高らかに飲み物の入ったグラスを掲げる水月。
 は、恥ずかしいよぉ~。
 でも、せっかく水月がお祝いしてくれるんだから。
 周りの人の視線が気になってたけど、それ以上に水月の気持ちが
嬉しかったから。
「ありがとう、水月」
 私もグラスを掲げて、水月のグラスにコツンと挨拶をした。



 ここは、柊町のどこかにある喫茶店。
 今日は3月22日。
 白陵柊に通うようになってから、2回目の私の誕生日だった。
「しかし遙も17歳か~、早いもんだね」
 お誕生日用のケーキを切り分けながら水月が言う。
「……な、何が早いのかよくわからないんだけど……」
 私は水月が取ってくれたケーキを受け取る。
 水月は私の問いかけには答えずに、自分用に少し大きめに切り取った
ケーキを頬張った。
「うん♪ このケーキおいしい~。遙も早く食べてみなよ」
 水月が本当においしそうに言うので、私も食べてみることにした。
 フォークで一口サイズに切り取って、口の中へ入れる。
 あ、ほんとにおいしい。
「でしょ? この店にしてよかったねぇ」
 今日は私の誕生日ということで、お祝いをしてくれるという水月に連れられて、
この喫茶店にやってきた。
 喫茶店なんだけどケーキの味は絶品、という水月の話だったので来てみた
わけなんだけど、正解だったかな。
 でも、よかったと言いつつも、水月は何か落ち着かない様子。???
「どうか、したの?」
「え、何が?」
 水月は何のこと?って目で私を見つめる。
「何か気にしてるみたいだから……」
 水月は少し微妙な表情を浮かべている。
「あ~、まあ、なんてゆーか、遙をびっくりさせようと思ってたからさ~。うまくいって
よかったかなって」
「それは、確かにびっくりしたけど」
 何か水月は隠してるような、そんな感じだったけど、私は気にしないことにした。
 だって、水月がお祝いしてくれてるのは事実なんだから。



 カランコロン♪
 おいしいケーキに舌鼓を打っていると、カウベルの音とともにドアが開いた。
 中に入ってきたのは私も水月もよく知っている子だった。
 その子に気づいた水月は、先生にイタズラが見つかった小学生のような
表情を浮かべた。
「えへへ。こんにちは、水月先輩♪」
 その子は嬉しそうに言うと、私の隣に腰掛けた。
「あ、茜よくわかったわね……」
 水月はすごくがっかりしている。
「それはわかりますよ~。大好きな水月先輩のいるところなら、たとえ火の中
水の中。それに、今日はお姉ちゃんの誕生日なんだもん。水月先輩が行き
そうなところは絞りやすかったです」
 にこにこしながら茜が答えた。
 この子は涼宮茜。私、涼宮遙の3つ違いの妹だ。
「でも、どうして水月は残念そうな顔してるの? 茜にみつかったらまずいことでも
あったの?」
 水月はしばらくうなだれていたが、アイスティーをごくごくと一気飲みすると
ようやく落ち着いたのか、話してくれた。
 曰く、茜とのちょっとした賭けに負けてしまったために、今度会った時に何でも
好きな物をおごらされる、ということだったみたい。
「よりによって今日なんだ……。遙のためにいつもよりちょっとクオリティの高い
お店にしたのがマズかったかなあ」
 え、どういうこと?
「おいし~い♪ ほんとにここのケーキおいしいですね、水月先輩♪」
 いつのまにか、茜はケーキを注文していて、それを食べていた。
「だってさ、このお店のケーキは有名なパティシエールが作るほんとにおいしい
ケーキなの。そして、そのおいしさはどこに影響してくるかと言うと」
 ようやく、水月の言おうとしていることがわかってきた。
「お金、だね」
 水月は元気なく首を縦に振る。
「そ、そのとおり。確かに値段に見合った味なんだけど。3人分となると……
けっこうキツイかも」
 そ、そうなんだ……。
「すいませ~ん。追加いいですか~」
 茜は容赦なく追加注文をする。
「あああ……」
 そしてどんどん力がなくなっていく水月。
「あ、あの、私、自分の分は自分で払うから……」
 思わずそう言ったことが、逆に水月に火をつけたようだった。
「それはダメ! 今日は遙のお誕生日なのよ? 遙には喜んでもらいたいもん。
それに、茜とのことも約束だから文句は言えない。きっぱりあきらめるわ」
 水月はさっぱりした顔でそう言うと、ケーキをパクパク食べ始めた。
 水月のこういうところはほんとにすごいなって思う。



 おいしいケーキをいっぱい食べた後の帰り道。
 夕日が茜色に染まっていて、すごくきれいだ。
「でもさ、来年はこんなふうに過ごせないかもしれないから、これはこれで楽しい
思い出だよね」
 サイフにかなりのダメージを受けた水月がそんなことを言った。
「どういうこと?」
 問い返す私。
「だって、来年は遙に彼氏が出来てるかもしれないじゃない?」
 ええっ?
「え~、お姉ちゃんに彼氏~? なんか、全然想像できないんだけど」
 ううっ、すごく失礼なことを言われてる気がする。
「そんなことないわよ、茜。遙だって普通の女の子なんだから。それに、こないだ
聞いたところによると、好きな男が……」
 ちょ、ちょっと水月!
「おっとこれは内緒だった。じゃあ私はこっちだから。また明日ね遙! 茜も
今度会ったときには賭けのリベンジするからね~」
 水月は言いたいことだけ言うと、さっさと走っていってしまった。
 茜が私の顔を覗き込んで言う。
「好きな人……いるんだ?」
「い、いませんっ」
 思わずそう言ったけど、茜はにやにや笑いをやめない。
「別に隠すことないと思うけどね~」
「か、隠してなんかないですっ」
 やたら過剰に反応する私がおもしろいのか、茜はにこにこしながら歩いて
いった。



 彼氏、かあ。
 ふと想像してしまうのは、あの人のこと。
 まだお話もしたことがないけど、来年は同じクラスになれたらいいな。
 そんなことを考えながら、随分先まで歩いていってしまった茜の後を追いかけた。



 もう少しすれば桜の花が咲き、新しい季節がはじまる。
 出会いと別れ。春はうれしいことと悲しいことが半分ずつやってくる季節。



 来年は、いいことあるといいな。



 未来への想いを胸に、私は明日への一歩を踏み出した。



おわり



あとがき



PCゲーム「君が望む永遠」のSSです。
ヒロインの涼宮遙の聖誕祭用です。
今年は書く予定してなかったんですが、なんとなく書いてしまいました。
未来の話はもう書かないと決めていたので、過去の話になりましたが、
なんだか微妙な感じです……。
やはり、ちゃんとプロット立てないとダメだなあ。



それでは、また次の作品で。



��005年3月22日 涼宮遙さんお誕生日♪



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