2009/08/31
(ぷちSS)「43日目 終わらない夏と……」(舞阪 美咲)
全力を使い果たした練習試合が終わり、昨日は家に帰ってきて部屋に入った途端、猛烈な
睡魔に屈服した。夜中に暑さで目が覚めて、シャワーを浴びて身体を冷やしてからエアコン
のタイマーをセットして再び眠りについた。
これでゆっくり眠れる。
と思っていたのだが、強力な目覚ましを解除するのを忘れていたことに気がついたのは、
��分ほど前のことだった。
「おっはよっ♪ 雄一っ」
という元気な声で、掛け布団がひっぺがされた。
「きゃあああああっ♪」
少し嬉しそうな悲鳴と共に、掛け布団が返された。
「どどど、どうしてハダカで寝てるのよ?」
「……気持ちいいからな」
「ヘンタイさんだ、雄一がヘンタイさんだよっ!」
朝も早くからテンションが高いのは、やはり美咲だった。ポニーテールの似合う元気全開
少女。この強力目覚ましは、解除不能だと言うことを完全に失念していた。
「それはいいとして、なんでおまえはここにいる」
「雄一を起こしに来ましたよ?」
「なんで疑問形なんだ」
「そういう年頃なんだよ、きっと」
「そうか」
「うん♪」
こんなことで疲れてはいられないので、俺はさっさと起きることにした。
「……わくわく」
わくわくとか言うな。
「えーとな、出て行ってくれると嬉しいんだけど」
「えー」
えーじゃない。
「びー」
びーでもない。
「ふらいー」
「……」
「今日のおかずはエビフライだからねっ。早く着替えてきてね~」
美咲はどたどたと階段を下りていった。まったく騒がしいヤツだ。
「よーし、今日はちょっと早いがこれで終わりだ。まだ昨日の試合疲れが残ってるだろうし
な。それに今日で夏休みも終わりだから、いろいろやりたいこともあるだろ」
平田先生の言葉に従って、夏休み最後の部活は終了となった。
確かに、少し身体の動きは鈍いような気がする。
試合は、残念ながら俺たちの負け。それもけっこうな大差がついていた。しかし、俺たち
は最後まであきらめなかった。だって、試合の時間は決められているのに、俺たちがあきら
めちまったらすぐに終わっちゃうだろ。
試合には負けちまったが、練習の成果はちゃんと出ていたように思う。最後のシュートも、
見事に決まったしな。まあ、あれは美咲のおかげでもあるけど。
「美咲。昨日はサンキュな」
靴を履きながら言うと、美咲は首を傾げた。トレードマークのポニーテールがぴょこんと
揺れる。
「なんのこと?」
「ほら、いっぱい応援してくれただろ」
「それは当然だよ。マネージャーだもん」
「それだけか?」
「……それだけっ」
珍しく、顔を赤くしていた。まあ追求することでもないか。
「お礼に、美咲のお願いをひとつ聞いてやろう」
「え、ほんと!」
「俺に二言はない……。まあ、金のかかることは聞こえないけどな」
「かっこ悪いセリフだね。でも、雄一らしいかな?」
あははっと美咲が笑う。
「それじゃあね、プールに行こう!」
どうやら、夏はまだまだ終わらないらしい。
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