2000/03/02

今日のかなでさん(FORTUNE ARTERIAL ぷちSS)



「はい、こーへー。今日もお仕事お疲れ様。たーんと召し上がれ♪」
「って、かなでさんいったいどこから」
「ひどいなあ、人をボーフラみたいに湧いて出るみたいな言い方するなんて。お姉ちゃん
は悲しいよ、よよよ」
「いや、俺はどこからこの鍋を出したんですかって聞きたかったんですが」
「こ、孝平くん……それを聞いちゃうんだ……」
「え?」
「支倉先輩……大胆です」
「ちょ、陽菜も白ちゃんもどうしたって言うんだ?」



「女の子には、秘密があるってことなの。支倉くんも、そういうことはわからないと」
「いや、その理由はどうかと思うんだけど。じゃあ、副会長にも秘密があるってことなの
か?」
「……ふうん、知りたいんだ?」
「……聞かないほうがよさそうだな、って、かなでさんいつまで泣いているんですか!」
「こーへーがかまってくれるまで。ってなわけで、こーへーがかまってくれたから復活し
ます!」
「かまわないほうがよかったかな……」
「まあまあ、孝平くん。はい、お鍋もちょうど良い具合だよ♪」
「とってもおいしそうです」
「ひなちゃんもしろちゃんも、いーっぱい食べてね。もちろんえりりんも♪」
「はい♪ ありがとうございます、悠木先輩」
「ほらほらこーへー。お姉ちゃんがよそってあげるから、そんな寂しそうな顔してないの」
「してません」
「でもだいじょうぶだよ。おなべを食べれば、みんなにこにこ。疲れも悩みもなんでもか
んでもぜーんぶ吹っ飛んじゃうんだから♪」



「もう……食べられません」
「こーへー、やっぱり男の子だね♪ 全部食べちゃうんだもの」
「かなでさんが作ってくれましたからね、残せませんよ」
「も、もう~、嬉しいこと言っても、もう何も出ないんだからね!」
「いえ、もう食べられませんって」
「ふふ、孝平くんのお腹、すっごく膨らんでるよ」
「うわああ、すごいです、お相撲さんみたいです」
「白ちゃん、それって褒められてるのかな、俺」
「ずいぶん苦しそうにしてるけど、ズボンのベルトをゆるめてもいいのよ、支倉くん」
「いや、女の子の前でそれはできないだろ、さすがに」
「わ、私は別に……構わないんだけど」
「そうだよこーへー、えりりんの許可も出たことだし、お姉ちゃんが脱がしてあげよう♪」
「ちょっと待ってください。いつの間にか脱ぐことになってるし!」



「ハッピー、ハロウィーン! ……なのに、どうしてこーへーは元気が無いのかな」
「……昨日、かなでさんが俺にひどいことをしたからですよ」
「まあ、過ぎたことはいいじゃない、見られて減るものじゃないし。……むしろ、おっき
くなってたかも」
「俺、鳥になってもいいですか」
「……貴方達、いつもそんなことをしているのかしら」
「ち、違うわよ! 昨日はたまたまそうなっちゃっただけなんだから」
「そうなの、東儀さん?」
「え? えっと、そ、それは何と申してよいのやら……」
「ちょっと紅瀬さん。白じゃなくて、私に聞けばいいじゃないの」
「あら、誰に聞こうが私の勝手でしょう」
「まあまあふたりとも。お菓子をあげるから、ケンカはダメだよ。はい、孝平くんにも」
「ありがとな、陽菜」
「うんうん、やっぱりひなちゃんはサイコーだね。イタズラしなくてもお菓子をくれるん
だもん♪」
「お姉ちゃんは昨日、孝平くんをいじめすぎたのであげません」
「そんな~~~」
「自業自得、という生きたお手本ね」



「あれ、こーへー何やってるの。お部屋がすごいことになってるけど」
「ああ、かなでさん。今は生徒会の仕事も落ち着いているので、たまには部屋の掃除でも
しようと思って」
「そういうことなら、わたしたち悠木姉妹におまかせだよ。ね、ひなちゃん♪」
「うん。孝平くん、私たちもお手伝いするよ」
「いや、それはふたりに悪いから」
「固いことは言いっこ無しだよ、こーへー。わたしたち、幼なじみだもん」
「かなでさん……」
「それじゃあ、まずはベッドの下からかな。……やややっ、こんなところにこーへーのえっ
ちな本がっ!」
「そんなところに隠すわけ無いでしょ!」
「ふぅん、じゃあ、別のところに隠してるんだ?」
「……うっ」
「お姉ちゃん、だめだよ?」
「ありがとう、陽菜。かなでさんを止めてくれるのか……」
「ベッドの下じゃなくて、本棚の二段目と三段目の間に秘密のスペースがあるんだから」
「って、なんで知ってるんだー!?」
「さすがはひなちゃんだね」
「ふふふ、孝平くんのことは、なんでも知ってるよ。だって、幼なじみだもん♪」



「うわ~、どっちが勝っててもおかしくないよねえ」
「そうですね。でも、こういう時の為に写真判定があるんですよ」
「科学の進歩はすごいねぇ……、って、そういやこーへー」
「なんですか」
「ほら、こーへーが転校してきた時に、『修智館学院108の秘密!』て冊子をあげたでしょ」
「ああ、お姉ちゃんがいろいろ手を加えたんだよね」
「そうそう。その冊子なんだけど、新たに秘密を増やそうと思ってるんだけど」
「……わざわざ増やす必要がないようにも思えますが」
「んにゃ、そういう意味じゃなくてー」
「孝平くん。お姉ちゃんは、秘密のスポットを増やそうって言ってるんだよ」
「そうそう! さっすがひなちゃん、わたしのダンナ!!」
「ヨメじゃなかったんですか」
「いや、だってヨメはこーへーだし」
「なんでそうなるんですか」
「孝平くん。目の前にいるのは、お姉ちゃんなんだよ?」
「台詞は普通なのに、すごく説得力があるのはなんでだろう」
「わかってもらえて、お姉ちゃんはうれしいよ~♪」



「こーへー、今日は少し顔が赤いけど、だいじょうぶ?」
「え? ええ、大丈夫ですよ、かなでさん」
「孝平くん、辛かったら無理はしないほうがいいよ」
「そうよ、支倉くん。無理して病気になってもつまらないじゃない」
「あ、あの、もしよろしかったら、身体があたたまる薬湯を準備いたしますが」
「ありがと、白ちゃん。でも本当に大丈夫だから。陽菜も副会長も、心配してくれてあり
がとうな」
「そうは言っても、こーへーが心配なのだよ、お姉ちゃんは。どれ、熱はないかな~」
「かか、かなでさん、おでこ同士はまずいですって!」
「うわ、なんだかこーへーがどんどん熱くなってくるよ!」
「……お姉ちゃん、それはしかたないんじゃないかな」
「ねえ白、見てる私たちも暑くなってこない?」
「はい、どきどきします……」



「こっ、こここーへーが勉強してる!」
「突然遊びにやってきたあげく、随分ひどい言い草なんですが」
「だってさー、遊びに来たのに勉強してるなんて、それはわたしに対して礼を失している
と思わない?」
「むしろ、かなでさんが勉強している俺に対して、礼を失しているように思うんですが」
「むー、こーへーが反抗期だよぉ……」
「あーもぅ、わかりました。だからそんな泣き真似はやめてください」
「ほんと? えへ~、やっぱりこーへーはやさしいね~」
「それで、何をして遊ぶんですか?」
「そうだね~、二人三脚とか、どう?」
「聞いた事はありますが、それが二人でする遊びだとは知りませんでした」
「なんだったら、ひなちゃんを呼んで三人三脚でもいいよ」
「足が一本減ってませんか……、あー、じゃあ二人四脚で」
「こ、こーへーの第三の脚……きゃっ♪」
「ネタを振った俺が悪かったです、すみませんでした」



「こんばんは、こーへー。今日もかなでお姉ちゃんがやってきましたよ~」
「……むにゃ」
「あらら、孝平くん、寝ちゃってるみたいだね」
「しょーがない、わたしたちでお茶会の準備をしておこうか。ひなちゃん、もうすぐえり
りんとしろちゃんが来るはずだから、ドアの鍵を開けておいて」
「あはは、孝平くんの許可を取らなくてもいいのかな……」
「だいじょーぶ。こーへーのものはわたしのもの、わたしのものはひなちゃんのものだよ♪」
「こんばんは~って、支倉くんは寝ちゃってるのね」
「支倉先輩、おじゃまします」
「……んぁ」
「ふふ、こうして寝顔を見ていると、お母さんみたいな気分になってくるわね」
「支倉先輩の寝顔、すごくかわいいと思います」
「それじゃあ、今日はこのままこーへーを起こさずに、女の子だけでお茶会をはじめよう
か」
「いいのかなあ……」
「無理に起こすよりは、眠ったままのほうが支倉くんもいいんじゃないかしら?」
「い、いいのでしょうか……」



「こんばんは、支倉くん」
「ああ、いらっしゃい。昨日は悪かったな、寝ちゃってて」
「支倉くんが謝ることじゃないでしょう。私たちのほうこそ、勝手に入っちゃってごめん
なさい」
「すみませんでした、支倉先輩」
「いいっていいって、白ちゃんも顔を上げてくれよ。だって、ふたりを部屋に入れたのは
かなでさんなんだろ?」
「それは、そうなんですが」
「だったら問題ないよ。かなでさんはいつもあんな感じだけど、本気で人が嫌がることは
しない人だから」
「……ふぅん、悠木先輩のこと、信頼してるのね」
「かなで先輩が、うらやましいです」
「まあ、その代わりに、今日のお茶会の準備は全部かなでさんにしてもらうことになって
るんだけどね」
「しくしくしく、こーへーがいっぱいごほうししないと許さないって言うから、しかたな
くしてるんだよ~」
「それはそれ、これはこれです。理由はともかく、俺に無断でやった事には変わりないで
しょう」
「千堂さんが来る前から見ているのだけど、支倉君は、意外と亭主関白なのね」
「……く、紅瀬さんが言うと、信憑性があるわね」



「おっなべ♪ おっなべ♪」
「かなでさん、ごきげんですね」
「それはそうだよ。今日は待ちに待ったお鍋パーティーの日だもん。ほら、見てよこれ。
鉄人から秘伝のタレを借りてきてるんだよ」
「ラベルも何も貼られてないけど、鉄人なら信頼できるわね」
「うっふっふ~、えりりんにも分けてあげるからね」
「さっすが悠木先輩。支倉くんには感謝しないとね♪」
「別に俺は何もしていないけど」
「だって、支倉くんがいなかったら、このお鍋パーティーは開かれなかったかもしれない
じゃない」
「それを言うなら、やっぱり必要不可欠なのはかなでさんだと思うけどな」
「何言ってるの、こーへー。必要なのは、お鍋を囲むみんな、なんだよ」
「……そうですね、かなでさんの言うとおり」
「はい、そろそろいいかな。お姉ちゃん、お肉お願いしてもいいかな」
「おっけー、ひなちゃん♪ それでは、お肉を入れちゃうよ~。みんなお腹い~っぱいに
なるまで食べようね」



「寒くなってきたね、こーへー」
「もう十一月ですからね。部屋の中とは言え、上着を着てないと寒いですよ」
「かなで先輩、熱いお茶をどうぞ、です」
「ありがと、しろちゃん。う~ん、あったまるなあ~」
「白ちゃん、俺もおかわりいいかな」
「はい。こういう時は、あたたかいお茶が落ち着きますから。実家では兄さまとよく日本
茶を飲んで過ごしています」
「副会長は日本茶よりも紅茶派だったりするのか?」
「好きなのは紅茶だけど、日本茶もよく飲むわね。白が淹れてくれるお茶は、本当におい
しいもの」
「ありがとうございます、瑛里華先輩」
「確かに、この技術はすごいよね~。ねえ白ちゃん、今度私にお茶の淹れ方を教えてもら
えないかな?」
「はい。わたしでよろしければ。あ、それでしたら、わたしも陽菜先輩に紅茶の淹れ方を
教えていただきたいのですが」
「うん、いいよ。ふたりで教えあいっこしようよ」
「はい♪」
「よかったね、こーへー」
「何がですか」
「だって、ひなちゃんもしろちゃんも、二人ともお茶を上手に淹れてくれるんだもん。そ
のお茶を味わえるわたしたちは幸せだと思わない?」



「こんにちは、こーへー」
「あれ、かなでさんどうしたんですか」
「うん、今日は風紀委員の仕事が早く終わったから、こーへーのお手伝いをしようかなっ
て」
「それはすごくうれしいんですけど、ちょうど生徒会の俺の仕事も一段落したところだっ
たりします」
「なんだ、ちょっと残念」
「まあまあ、いいじゃないか支倉君。せっかく悠木姉が来てくれたんだから、手伝っても
らおうよ」
「……兄さんの仕事は、兄さんがやらなきゃダ・メ・で・しょ!」
「なあ瑛里華。俺の頭の骨がミシミシと音を立てているような気がするんだが」
「あら、兄さん。耳は正常なようね」
「あわわわわわ……伊織先輩が」
「白。悠木にお茶を用意してあげなさい」
「はははい、兄さま。でも、いいんでしょうか」
「白が気にすることではない」
「うんうん、今日もえりりんは元気だね~」
「かなでさんには、この光景が自然なんですね……」



「ひぇっくしょん!」
「だいじょうぶですか、かなでさん」
「うー、あんまりだいじょうぶじゃないかも」
「お姉ちゃん。女の子なんだから、ちゃんと口元押さえないとダメでしょ。孝平くんに嫌
われちゃうよ」
「そんなのいや!」
「俺は、あんまり気にしないけど」
「孝平くん、だめだよ甘やかしちゃ。女の子はね、好きな男の子の前では一番きれいな姿
を見てもらいたいものなの」
「そういうものなのか」
「そうなの。わかったら孝平くんも……っくしゅん!」
「あ、そういうふうにするんだね。わかったよ、ひなちゃん♪」
「悠木さん、よかったらこのちり紙を使うといいわ」
「あ、ありがとう紅瀬さん」
「礼には及ばないわ。だって、女の子は好きな男の子の前では一番きれいな姿を見てもら
いたいものなのでしょう?」



「こーへーこーへー!」
「なんですか、かなでさ……ぐふっ」
「寒いから、抱きしめて?」
「……俺としては、体当たりする前に言って欲しかったんですが」
「こーへー、わたしのことキライなの……」
「そんなこと言ってないでしょう。……えーと、まあ誰も見てないなら」
「えっへへ~、こーへーはやっぱりやさしいね~」
「あの、私、先に帰ったほうがいいかな?」
「だめだよ、ひなちゃん。ひとりは寂しくて寒いの。だから、みんなであったまればいい
んだよ?」
「えっと、それはもしかして」
「こーへーが、わたしたちを抱きしめればいいんだよ♪」
「えっ、えええっ」
「なるほど、それは名案ですね」
「こっ孝平くんまで?」
「三人仲良く、あったかくなろうね~」



「遅くなっちゃったね、こーへー」
「ええ、すみませんでした、かなでさん。付き合わせてしまって」
「それは言いっこなしだよ。……だって、わたしがこーへーと一緒にいたかったんだもん」
「……俺も、同じ気持ちでした」
「こーへー……だめだよ、早く帰らないと、ひなちゃんが心配するから」
「陽菜には、俺が連絡しておきましたから」
「……」
「かなでさん、抱きしめてもいいですか」
「は、恥ずかしいよ、こーへー……あっ」
「かなでさん、いい匂いがします」
「だめだよ、まだお風呂に入ってないから」
「それじゃあ、後で一緒に入りましょうか」
「こーへー、えっちなんだ」
「えっちですよ、かなでさんの相手をする時だけは」
「……、……いいよ」



「じゃじゃ~ん。今日のお昼は、おなべでーす♪」
「待ってましたっ♪」
「ふふ、えりちゃん、ごきげんだね?」
「だって、この間食べたお鍋の味が忘れられなくて。支倉くんも
そうでしょ?」
「ああ、あれは美味しかったもんな。それに、今日のこれも……って、なんだかすごく」
「紅い……ですね」
「白ちゃんもそう思うか、よかった、俺の見間違いじゃなくて」
「って全然よくないわよ! 悠木先輩、これはいったい」
「きりきりに味付けを頼んだんだけど、何か問題があったかな」
「紅瀬仕様よ。私にはとても美味しそうに見えるわ」
「そりゃあ、紅瀬さんにはそう見えるでしょうねぇ」
「えりりん、料理で一番大事なのは、なんだか知ってる?」
「……味、ですか?」
「そう♪ だから、見た目で判断しちゃだめだよ」
「それはそうですけど……」
「なんだか、目がぐるぐるしてきました~」
「わわっ、白ちゃん?」
「よし、こーへーに先鋒を命じる♪」
「俺ですか……わかりました、かなでさんのお願いですからね」
「言うわね、支倉君。……骨は拾ってあげるわ」
「ありがとう紅瀬さん。いざ!」



「悠木さん、ちょっとお話があります」
「あ、まるちゃんだ、こんばんは」
「はい、こんばんは。……まるちゃんと呼ぶのはやめなさい#」
「お話って、なんですか?」
「……ちょうど支倉君もいるので、一緒に聞いてください」
「わかりました」
「実は、最近ふたりがとても仲良しだということを聞きました」
「はぁ」
「それ自体はよいことだと私も思いますが、物事には節度というものがあります」
「……」
「人前では控えるように。わかりましたか?」
「わかりました~。まるちゃ……」
「はい、気をつけるようにします。では俺たちはこれで。行きますよ、かなでさん」
「あー、こーへーがわたしの口を押さえてイケナイことを、もがもが」
「失礼しました~」
「……支倉君も大変ですね」



「こーへーは、ウェディングドレスと白無垢とどっちが好き?」
「あらためて聞かれると悩みますね。俺の意見よりも、女の子の意見のほうが参考になる
んじゃないですか。副会長は?」
「私? そうねぇ、ウェディングドレスかな。母様がいつも着物を着ているから、洋装の
ほうがいいと思うし」
「わたしは、白無垢にするとは思いますが、瑛里華先輩の言うように、ウェディングドレ
スにも憧れます」
「私は、やっぱりウェディングドレスかな。旦那様に抱きかかえられて家に入るのが、小
さい頃にテレビで見て、とっても印象的だったなあ」
「あ、それわたしも覚えてるかも。ひなちゃん、こーへーと結婚式ごっこしたがってたよ
ね」
「おおお、お姉ちゃん?」
「……えっと、俺の記憶ではそんなことをしてはいないと思うんだけど」
「それはそーだよ。だって、やってないんだもん」
「そっか、陽菜の願望だったってわけね」
「その気持ち、わたしにもわかります」
「もう、えりちゃんも白ちゃんもやめてよ~。それより、お姉ちゃんはどっちが好きなの?」
「え? わたしはどっちも着てみたいから、お色直しで着る予定なんだよ」
「……じゃあ、わざわざ俺に聞く必要はなかったのでは」



「あれ、もしかして雨やんだのかな?」
「そうみたいだな。太陽も見えてるし、また雨が降ることはないんじゃないか」
「それじゃあ、散歩に行こうよ!」
「お姉ちゃん、突然どうしたの」
「せっかくお天気になったんだもん。散歩に行かないと天気がもったいないよ」
「それはそうかもしれないけど……孝平くん、どうする?」
「まあ、いいんじゃないか。せっかくだから、紅茶を水筒に入れて持って行こう。外でお
茶会ってのもいいだろう?」
「そうだね。それじゃあお茶の準備は私がするから、孝平くんはティーセットをお願いし
ていいかな」
「了解。かなでさんは、座るためのシートをお願いします。そこのボックスに入れてある
はずですから」
「おっけー。なんだかすっごく楽しくなってきたー!」



「おかえりなさい、孝平くん」
「……ただいま、陽菜。それに副会長も」
「ふふん、私のほうが早かったわね♪」
「なんで勝ち誇っているのかよくわからないけど」
「いいじゃないの、別に。白はもう少ししたら来るって。さっきメールが届いたわ」
「それじゃあ、そろそろお茶の準備をはじめようか」
「そうしましょう。……どうしたの支倉くん、きょろきょろしちゃって」
「……いや、一番騒がしい人が今日はいないのかなと思って」
「一番大好きな人、じゃないの? 孝平くんにとっては」
「一番大切な人、なのかもしれないわね、支倉くんにとっては」
「……あー、ふたりが何を言いたいのかわからないけど、かなでさんは俺にとって、一番
気になる人、だな」
「ふふふ」
「何がおかしいんだ?」
「だって、私たちはお姉ちゃんのことだなんてひとことも言ってないのに」
「……くっ」
「安心して、孝平くん。お姉ちゃんも少し遅れるって。『たまには、こーへーをじらして
あげるんだから♪』なんて言ってたよ」



「うう~、随分寒くなりましたね。早いとこ帰りましょう」
「そうかな、わたしはそうでもないけど♪」
「そりゃ、俺を風よけにしてりゃ、かなでさんはいいかもしれませんけど」
「こーへーは、わたしに抱きつかれるのが、イヤなの?」
「なんていうか……歩きづらいです」
「つめたっ! こーへーが第四階層みたいにつめたいよぅ」
「それ、一部の人にしか意味が通じませんから」
「こーへーには通じてるんでしょ? だったらそれでいいよ」
「通じればいいというものでもないような……」
「ふたりが通じ合ってれば、それだけでムテキの愛のメモリーなんだよ」
「言葉の意味はよくわかりませんが、かなでさんがすごいひとだなっていうのはわかりま
した」
「えっへん♪ ごほうびに手をつないであげよう」
「ありがとうございます。……あったかいですね」
「ムテキの愛、だからね♪」



「こーへー、あ~んして」
「あ~ん」
「かなでお姉ちゃんからのプレゼントだよ。名づけて風紀チョコ」
「……あの、俺、何か、悪いことしましたか……、ぐふっ」
「はぅっ、支倉先輩が倒れてしまいました」
「お・ね・え・ちゃ・ん?」
「あ、あれー、おっかしいなあ。こーへーのために愛をこめて作ったのに」
「も、もしかして、これが原因ではないでしょうか」
「どれどれ……って、これは包み紙だよね?」
「表を見てください」
「これは、風紀シールと同じような絵!」
「こーへーのために愛をこめて書いたのに」
「かなで先輩に悪気はないのだと思いますが……」
「そうだね。まあ、犠牲者が孝平くんだけで済んだのが、不幸中の幸いなのかな」
「こーへーは、わたしのチョコが食べられて満足なんじゃないかな」
「気絶しちゃってるけどね……」



「今日もおなべだー!」
「寒い日はやっぱり鍋ですよね。今日はキムチ鍋ですか」
「うん! きりきりに味付けを教わったの」
「なんだか、私は嫌な予感がするんだけど。白はどう思う?」
「……すごく、紅いです」
「お、お姉ちゃん、だいじょうぶなの?」
「へーきだよ。ね、きりきり?」
「ええ。味は保障するわ」
「かなでさんと紅瀬さんが言うなら、食べてみるか」
「めしあがれ♪」
「……うまい」
「本当、支倉くん?」
「ああ、騙されたと思って副会長も食べてみろよ。あ、熱いのが嫌なら俺がふーふーして
やろうか?」
「自分でできるわよ! ふー、ふー、ぱくっ……美味しい」
「すごく紅いですけど、辛味だけでなく、きちんとバランスが取れてます♪」
「本当。お姉ちゃんと紅瀬さんに感謝だね」
「わたしは、ちゃーんと『きりきりに味付けを教わった』って言ったよ」
「味は保障する、と言ったでしょう」
「そうだな。ありがとう、紅瀬さん」
「……べ、別に貴方のためにやったわけじゃないわ」
「きりきりがデレた!」



「あ、あのね、こーへーはえっちなこと好きかな!!」
「突然聞かれても、どう答えてよいのやら」
「正直に答えればいいじゃない」
「そうね、私も聞いておきたいわ」
「あら、珍しく紅瀬さんと意見が一致したわね」
「あまりうれしくはないものだけど」
「で、こーへーどうなの!」
「あらためて聞かれましても、どう答えてよいのやら」
「なるほど、そうやってかわそうというわけね」
「のらりくらり……意外にしたたかね」
「あー、そこの二人は静かにしてくれ。陽菜はどう思う?」
「え、え? わ、わたしはえっちはその、興味がないわけじゃないけど、でも孝平くんな
らいいかなっ、て何を言わせるのー!」
「……まさかの参戦ね」
「これに関しては、千堂さんと意見が一致したわ」
「ひなちゃんなら、相手にとって満足だー!」



「支倉先輩。もしよろしければ、この後付き合っていただけませんか?」
「ああ、俺なら構わないよ」
「大変だ! ひなちゃん、きりきり。こーへーがしろちゃんと!!」
「お姉ちゃん、落ち着いて。ね?」
「慌てるよりも、落ち着いた大人の女、というところを見せたほうがいいかもしれないわ
ね」
「な、なるほど。……コホン、こーへー、行ってらしてもよろしくてよ」
「はい、それじゃ行ってきます」
「楽しみにお待ちくださいね」
「おほほほほ……。って、こーへー行っちゃったよ!!」
「だから、お姉ちゃん、落ち着いてね」
「今日は、二十四節気の『小雪(しょうせつ)』。東儀さんがお勧めの和菓子を用意してくれるそうよ」
「孝平くんは、白ちゃんと一緒に買い物に行ってくれたの」
「なんだそうだったんだ。……あれ、でもしろちゃんはこーへーとふたりっきりの時間を
過ごしてるんだよね」
「あ」
「……やるわね、東儀さん」



「こーへー、遅いよ~」
「はぁっ、はぁ……すみません。ベッドから出られなくて」
「その気持ち、わかるなあ。私ももうちょっと寝ていたいなって思う」
「この季節、お布団は極上のしあわせだからね~」
「ゆたんぽを布団に入れておくと、もうたまらないよな」
「お姉ちゃんは、確かゆたんぽ持ってたよね?」
「うん! 今でも使ってるよ。すーっごくあったかくて、もう布団から出たくないーって
思っちゃう」
「それでも、ちゃんと起きられるんですよね。何かコツでもあるんですか」
「え、えっと、教えなくちゃダメ、かな」
「えー、いいじゃない、ね、お姉ちゃん? ほら、孝平くんも」
「お願いします、かなでさん」
「ううう、しょ、しょうがないなあ。あのね、……このお布団から出たらこーへーに会え
るんだって思うと、起きられるの」



「はい、こーへー。お姉ちゃんたちに全ておまかせあれ♪」
「うわっ……なんで俺は組み伏せられてるんですか」
「ごめんね、孝平くん。でも、気持ちよくしてあげるから、ね?」
「そういう問題じゃないだろ。副会長もなんとか言ってやってくれ!」
「悠木先輩、左足は私がやりますね。白は右足をお願い」
「はい、わかりました、瑛里華先輩」
「ふたりともまるめこまれてるっ!」
「あ、でもきりきりが余っちゃうね。どうしよっか」
「私は構わないわ。……ここが、残っているもの」
「あー、きりきりずるーい!」
「残り物には福がある、という言葉を知ってる?」



「おっはよう、こーへー♪」
「おはようございます、かなでさん。今日も元気ですね」
「元気だけがわたしの取り柄だからね~。……こーへー、今わたしのことをバカにしたよ
ね」
「えーと、なんでそうなるんですか?」
「年上のひとに対しては、ちゃんと敬意を持って接しないと」
「はぁ」
「ほら、やっぱりバカにしてる」
「してませんってば。……どうしたら機嫌を直してくれるんですか」
「頭を撫でて」
「わかりました。……なでなで」
「……ま、まだまだ。次は、ぎゅってして」
「わかりました。……ぎゅっ」
「こ、こーへー今日は積極的だね……。それじゃ次は、んぅっ?」
「……キス、でいいんですよね?」
「うん! でも、まだ続きがあるんだよ?」



「ううっ、寒いなあ……」
「あら、こんにちは。珍しいところで会うわね」
「あっ、美術部の……どうも、お久しぶりです」
「そんなにかしこまらなくてもいいわ。私とあなたの仲でしょう?」
「なんだか、他の人が聞いたら誤解されそうなんですが」
「誤解されるだけなら別にいいじゃないの。でも、あなたとの仲を誤解されることにはな
らないとは思うけどね」
「それは、俺では部長さんの相手は務まらないということでしょうか」
「ふふ、嬉しい台詞だけど、それはあなたの本音ではないわよね」
「やっぱり、お見通しですか」
「もちろん。わからない人なんて、うちの学院にはいないんじゃない?」
「おっまたせー、こーへー!」
「ほら、愛しのパートナーが来たみたいよ」
「ややっ、部長ちゃんとこーへーが仲良しさんだっ!」
「悠木さん、その『部長ちゃん』という呼び方はそろそろやめてほしいのだけれど」
「あれ、おふたりはお知り合いなんですか」
「見た目はともかく、一応同じ学年なのよ」
「えええ」
「こーへー、驚きすぎ。そんなこーへーには、ふうき」
「冗談です」
「むぅ」
「ふふ、やっぱりこれは誤解されそうにないわね」



「教えないわよ」
「そんな冷たいこと言わないでくれよ」
「さすが、フリーズドライと言われる紅瀬さんね」
「えりちゃん、そこは感心するところじゃないよ……」
「貴方の大切な人に教えてもらえばいいでしょう」
「……かなでさん、いいですか?」
「ごめんね、こーへー。わたし、日本人なんだよ」
「知ってますけど」
「だから、数学はニガテなの」
「日本人であるということがその答えの理由になってませんが」
「こーへー知らないの? 日本人は数学がニガテなんだよ!」
「今、はじめて知りましたよ」
「嘘ね」
「嘘よ」
「孝平くん、騙されちゃだめだよ」
「きりきりもえりりんもひなちゃんも冷たいよ!」
「だって……ねぇ陽菜?」
「うん。紅瀬さんもそう思うよね」
「そうね。ふたりのそばにいると熱くなってくるから、わざと私たちは冷たくしてるのよ」



「はい。こーへー、これ持って」
「ぞうきん……ですか?」
「そう。今日はこれから白鳳寮の大掃除なの」
「お姉ちゃんが突然やろうって言うの。孝平くんは大丈夫?」
「ああ、構わないよ。自分たちの住んでる寮だもんな」
「さっすがこーへー。それじゃ、ひなちゃんにお掃除のいろはを教えてもらおうね」
「お願いします、陽菜先生」
「も、もう……孝平くんまで。こほん、それじゃ、こびりついた鳥のフンの取り方から」
「やけに局地的な内容なんだけど」
「だって、わたしたちが担当するのが、正に鳥さんのフンの被害がいっぱいあるところだ
から」
「俺の武器はぞうきんで大丈夫なのかな」
「それだけだとつらいけど、ちゃんと手順を踏めば、きっときれいになるから。きれいに
して、みんなに気持ちよく過ごしてもらいましょう」
「お~♪」



「こーへー、きりきり見なかった?」
「紅瀬さんですか、いえ、今日は見てないですね」
「そっか~。まるちゃんが用事があるみたいでさ、もし見かけたら連絡ちょうだい」
「わかりました。俺も心当たりを探してみますよ」
「心当たり、あるんだ……。やっぱりこーへーはきりきりのことが」
「だからなぜそうなるんですかとつっこみたいですが、今は紅瀬さんの捜索が最優先です
よね。副会長に電話してみます」
「今度はえりりんかー! よりどりみどりなんて、お姉ちゃんが許さないんだからね」
「ああ、もしもし、副会長」
「しかも無視してるし」
「かなでさんが泣いちゃうから手短に話すけど、紅瀬さんを探して欲しいんだ」
『わかったわ。ふふふ、去年一年間、苦労した経験が今こそ生きるようね。期待に胸をふ
くらませて待ってて、と悠木先輩に伝えておいて。それじゃっ』
「ということです」
「さすがえりりんだね。……じゃ、じゃあ、わたしは胸をふくらませないといけないから、
こここーへーに、……さわってもらわないと」



「みなさん、今日は寒い中、集まってくれてありがとー♪」
「悠木先輩には、いつもお世話になってるしね」
「かなで先輩は、ローレル・リングのお手伝いもしてくださいますし」
「なんで私まで……、まあ、しかたないのかしら」
「お姉ちゃん、こういうことはみんなを誘うからね」
「私はシスターの仕事もあるのですが、少しだけなら」
「美術部部長としては、部員みんなの分もがんばらないといけない、のかしらね」
「貴様らは関係者なのだからいいだろうが、なぜあたしまでが……」
「まあまあ伽耶さん。これが終わったら、みんなでお鍋を囲む予定なんですから。少しだ
け辛抱してください」
「ふ、ふん……まあ、たまにはよいだろう」
「というわけで、こーへーがネタバラシしちゃったけど、これが終わったら、鉄人に全面
協力してもらった特製お鍋パーティーがあるので、みなさんでお掃除がんばりましょー!」
「えっと、一応ユニフォームがあるので、みなさんそれに着替えてくださいね」
「ちょ、ちょっと陽菜。これ私たちも着るの?」
「そうだよ、えりちゃんなら大丈夫だよ」
「わ、わたしに似合うでしょうか……」
「……まさか、また着ることになるなんて」
「千堂君が私財を投入して寄付してくれたそうよ……」
「私としては、この光景をキャンバスに残したいのだけど」
「あ、あ、あたしまでこれを着るのか?」
「そうですよ。あ、俺は着ませんけど」
「な、ふ、不公平だぞ、支倉!!」
「いえ、俺の名前は孝平です」
「……つまらん。つまらんが、その駄洒落に免じて許してやるか」
「それじゃっ、秋の大お掃除祭り、はじめよう~」
『おー♪』



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